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乗り心地はあいかわらず固い。ボディ剛性がしっかりしているので、ダイレクトなショックはないが、ほかの406のようなしっとりしたストローク感はあまりなく、路面の感触をほどほどに伝えつつ、フラットな姿勢で走っていくような感じ。このあたりもまた、フランス車というよりイタリアンGT風だ。
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ハンドリングがセダンよりクイックなのは、知る人ぞ知る?406クーペのアピールポイント。トレッドを広くした専用リアサスペンションのおかげだ。軽いステアリングをちょっと動かすだけでスッと向きを変えるその反応は、406というより206に近い。しかもその後のグリップは、ほかの406より一枚上。もちろんフロントの接地感もプジョーらしくすばらしいから、この部分だけとればスポーツカーそのものだ。
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そんなわけで、その気になればけっこう速い406クーペなのだが、しばらくすると、ちょっとペースを落としてクルージングしようとしている自分がいた。魅力的なプロポーションを、より美しく見えるように走らせてあげようという気持ちになったのだ。そうなると、飛ばしているときには気になった軽いステアリングやおっとりしたATも、お似合いに思えてきた。やっぱりこのクルマはおとなのクーペだったのだ。
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昔はすべてのデザインをピニンファリーナにまかせていたプジョーだが、最近はほとんどを社内スタジオでまかなうようになった。それに合わせてクーペやカブリオレも、自社生産に切り替えてきた。ピニンファリーナがボディを製作するプジョーは、この406クーペが最後かもしれない。次期型への期待はもちろんあるが、その一方でちょっとだけさびしさも感じた今回の試乗だった。