いたって不満のない走りを実現
さっそく発進性からチェック。予想したよりもはるかにスムーズで、発進のしやすさは従来の湿式クラッチ式をしのぎます。筆者が従来のDSGの数少ないウイークポイントと感じていた発進時のひっかかり感が、ちゃんと改善されていることを確認できました。クリープは、ブレーキペダルから足を離してから1秒強後から、半クラッチによりユルユルと動き出します。これはペダルから足を離すと即座に動き出すATとはやや感覚が違うので、少々慣れが必要かも。それでもヒルクライムアシストが付いているので、ちょっとした上り勾配での発進はそれほど問題ではありません。
エンジンも新開発の1.4LのTSIシングルチャージャーという新しい仕様となっています。このエンジンは、圧縮比が高く、小径化されたタービン/コンプレッサーと水冷式インタークーラーを持つことで、レスポンスに優れ、広い回転域で大きなトルクを発揮します。実際、2000rpmあたりから十分に力強い加速を得ることができます。容量の小さなターボチャージャーを高い過給圧で回しているわけですが、やはりターボエンジンらしい「過給」している感覚があります。
基本的にエコ重視の同DSGは、アクセルペダルを3割以下ほどで踏んだ状態で、50km/hまで到達するのに5回もシフトアップします。55km/hぐらいで7速に入るという設定(学習機能については未確認)。100km/h巡航時のエンジン回転数は、メーター読みで7速で約2100回転、6速で約2500回転と、エンジン排気量のわりには異様に回転数が低くなっています。
全体としては、早めにシフトアップしてエンジン回転数を低くキープすることで燃費を稼ぐ設定ではありますが、加速が鈍くて不満だと感じることもありません。レッドゾーンは6500rpmで、全開にしたらけっこう速いことに感心させられました。
加速or一定速の巡航状態からアクセルオフorブレーキングすると、踏み込みに備えてシフトダウンします。低めのギアでは、けっして不快ではないながらも軽いショックを感じます。概ね気になるところはなかったものの、低回転域でのアクセルのオンorオフ操作に対し、湿式クラッチ式DSG搭載モデルよりも、ややジャダー(=振動)が多めに感じられました。
スポーティな走り方をしたいときは、「S」モードに入れると、低めのギアを使って3000rpm以上を多用する設定となり、ひとつのギアをホールドする時間が長くなります。シフトレバーを左に倒しマニュアルシフトを試すと、シフトアップは瞬時ですが、シフトダウンには空吹かし機能がないので、車両の姿勢変化を抑えるためか、あえて少しタイムラグを与えていることがわかります。「スポーティ」という切り口では、もう少しシフトダウンの所要時間が短縮されていたほうがありがたいところです。
というゴルフTSIコンフォートラインに試乗して、「これで十分でしょ!」というのが率直な印象です。それをVW広報氏に伝えたところ、「でも、上(=上級モデル)もいっぱいあるので……」と苦笑い。もちろんもっと上の世界を求めるのであれば、それ相応のエンジンを持つモデルを選ぶべきでしょう。そこまでいかず、軽い気持ちで、どうせならスポーティなほうが……という価値観で選ぶのであれば、このTSIトレンドラインで「十分」に満足できるのではないかと。
動力性能は十分だし、ATと同等にイージードライブが可能で、それでいて任意に7速ものギアを操ってシフトチェンジできるし、MTらしいダイレクト感もある。そして何よりも、車両価格が国産車なみにリーズナブルで、燃費がすごくいいという、このモデル本来の大きな価値があるわけですから!