僕が以前所有していたS2000を手放した理由は、いわゆる「家庭の事情」というヤツだった。僕自身は、スポーツカーだからこそ家庭の事情の犠牲にはしない、と心に誓っていたが、それだからだろうか、それはあっさりと破られた。
S2000を売却して手にした200万円は、そのまま母に渡した。父が死に、住む家がなくなったからだ。こういう風に書くと多少聞こえがいいが、結局のところ僕はS2000を売却しなければお金が用意できない経済状況だったわけで、自分の甲斐性のなさに情けないと思った。スポーツカーを犠牲にするとは。
それから約2年が経ち、僕はいてもたってもいられなくなった。やはりスポーツカーのない生活というのは味気ない。特にクルマが好きで、こういう仕事をしているのだから、想いは余計につのった。
で、02年5月。意を決して僕は再びスポーツカー生活を始めたわけだ。選んだのは99年式ホンダNSXタイプS。約500万円のローンを60回払いで組んで、毎月約9万円くらいの返済を始めた。正直、これは結構キツかった。この辺りの様子については、新潮社の「エンジン」誌で少しだけ書いた覚えがある。タイトルは確か、「スポーツカー生活、また始めました」だっただろうか。
毎月のローンはツラかったけど、対費用効果は抜群だった。NSXが手元にやってきてからは、生活は瑞々しいものになった。経済的には相変わらず潤いがなかったけれど、精神的にはとても満たされた。
月々約9万円のローンの他に、駐車場代と保険料がかかる。これだけで既に結構な金額。毎月ローンの支払い日近くなるとヒヤヒヤしたけれど、それでもなんとかクリアしてきた。
「Xacar」誌の連載のプロフィールでは、「愛車はまだローンが1/3も終わっていないNSX」となっていたけれど、気が付いてみたら、それでも半分に近いところまで返済していたのだから驚いた。
しかし別れというのは絶対的に突然なもので、ちょうどNSXを所有してから2年が経とうとしていたこの春に、僕はNSXとお別れをしたのである。ちなみに2年というのは僕にとってかなり長い所有期間だ。振り返ってみても、2年間所有したクルマというのは、S2000とNSXの他にはない。