このようにして生まれる走りの世界は実に理路整然としたものである。それだけにこれまでのスポーツカーの価値観で見ると面白味には欠けるわけだが、フェアレディZが目指そうとしている位置づけを考えた場合には納得できる走りだともいえる。
つまり、これまでのスポーツカーはある意味マニアを喜ばせるものだった。それゆえにスポーツカーはどんどん走りに過激さを増し、益々ユーザーを限定する方向に進んできたといえる。結果今やスポーツカーの市場というのは、月に数百台が売れるか売れないかという、かなり寂しい状況に陥ることになった。
しかしZはそういう方向に進み、自身でユーザーを限定することが正しいとは考えず、一人でも多くの人にスポーツカーを乗ってもらうという意志を持つことで、少しでもスポーツカーという存在をアピールし、その魅力に触れてもらおうとする機会を作ったのである。その意味では、走りにおいて尖っているだけがスポーツカーではないと判断し、他にスタイリングの美しさや比較的手軽に所有できることの喜びといった面までを広く考えたのだ。結果その走りは誰でも扱え、それでいてスポーツカーであることを感じさせるようなところに落とし込んだのである。
これは21世紀という新たな時代において、瀕死の状態にあるスポーツカーを復権させるという意味でも、大いに賛同できる考え方である。自らが市場を狭めてしまうよりも、やはり新たなスポーツカーが出せる市場を構築することには非常に意義があるといえる。
またビジネスとして見た場合にもフェアレディZというクルマは興味深い。Zというブランドがアメリカにおいて未だ根強い人気を誇るという事実に即し、アメリカをメインターゲットとして作られたことは、このクルマを評価する上で忘れてはならないポイントである。今や自動車ビジネスでの成功を考えた場合、多くの台数が売れるアメリカ市場を無視することは不可能で、この地での成功がその車種での成功を占うともいえる。
さらにアメリカに照準を定めることで多くの台数が販売できることを考えれば、クルマ1台辺りの単価を低く設定でき、魅力的な要素となりうる。さらにZの場合は、アメリカにおいて強いブランド性が築かれているので、この地のユーザーを意識したクルマとすれば、スポーツカービジネスを成功に導くことができる。それはポルシェが良い例で、かつて消滅の危機さえ迎えていたこの会社は、アメリカでのボクスターの成功によって今や優良企業にまでなっているのである。