●自動車ジャーナリストとしてZをどう感じたか?
まず基本の価格が300万円であるということに注目したい。3.5LのV6エンジンを搭載した最新のスポーツカーが300万円というのは、非常に説得力がある。しかもスペックは280ps/37.0kgmと言う、文句のない数値である。さらに300万円という価格ながらも、エクステリア/インテリアは全て専用デザインとされているところも高い評価を与えることができる。
300万円の価格を実現できた理由は、同社がスカイラインやステージアで採用するFMプラットホームと呼ばれる新世代のプラットホームを共用したところが大きい。さらに搭載されるパワーユニットも、スカイライン350GT-8で採用したものと同じVQ35DE型を使ったことも大きいだろう。サスペンションおよびブレーキも、基本的にはFMプラットフォームで先に使われたものをベースとしているため、コストを抑えることができた。もしこれがメカニズムまで専用設計となるスポーツカーであったら、600万円は下らない内容となってしまう。そう考えると、日産自動車はZという「スポーツカー」をより多くのユーザーに向けて提供することを重要なことだと考えていると分かる。
かつてのZのディテールをモチーフとして使いながらも、全体では新時代を感じさせるスタイリングとしたところはスポーツカーという商品を考えると非常に理にかなったものである。年輩の人には懐かしさを感じてもらい共感を得て、若者には新しさを感じてもらい共感を得る、という手法は、ユーノス・ロードスターで使われたものであり、結果ユーノス・ロードスターが成功を収めた理由のひとつとなっている。その意味ではインテリアにおいても懐かしいモチーフを使うなど抜かりない。一方で本物のアルミ材をアクセントとして使うなどして品質感の高さや新しさを打ち出している。
こうしてみると、エクステリア/インテリアは、300万円という価格ながらも相当にこだわりを持って構築されたといえる。もちろんインテリアの一部にはプラスチック感の強いパーツを使うなど、安っぽさを感じさせる部分もあるが、それでも全体の印象として質感の高さと新しさは訴求できた。
走りには新たな価値観を持たせている。3.5LのV6エンジンは回転で力を稼ぐのでなく、トルクの太さで加速を生み出すタイプ。回転の鋭さや伸び感、サウンドなど官能性は薄いが、数値に見合った仕事はきっちりとこなされており、実際に速いといえるだけの実力を持っている。
ハンドリングは意のままである。操舵に対するクルマの動きは適度にシャープでありながら、煩わしさを感じさせるほど速いものではない。それでいて正確性が高い。しかもこんな操縦性にも関わらず、常に高い安定性を示しているのがポイントだ。公道ではもちろん、サーキットでも常に安定方向にしつけられており、破綻をきたしにくい味付けとしている。これは車重1400kg台に達し、280ps/37.0kgmを発生するFR車であることを考えると、まさに理想的な味付けである。もしここで少し安定性を低め、さらに姿勢を変化させることのできる幅を持たせてしまうと、多くの人にとって危険な要素を増やすことになる。誰もが乗ることのできるスポーツカーであると考えれば、このセッティングが妥当と言えるだろう。