プロトタイプはロール剛性バランスや、リアのブッシュレート、リアタワーバーの径の見直しなどにより、これまで以上にリアが踏ん張るという。それに加え空力性能向上などが相まって効果するから、より高い速度域でも安心して高い入力を与えられるのであろう。つまり性能向上によってクルマの動きは以前よりもアンダーステア気味となったから、より高い領域まで持ち込んで入力が可能なのだ。
その意味では、操舵に対する初期の反応の鋭さだけを見ればオーバーステア傾向にある現行タイプSの方が鋭い。だがそれはあくまでプロトタイプが生み出す速度域よりも低い領域での話であり、一連の動きの中における切れ味の良さとはまた別の話になる。つまりプロトタイプはよりハイレベルな領域でのコーナリングを実現するための味付けがなされている、というわけだ。だからこそ操舵感は頼もしく、その後の動きにも高い信頼を感じられるのである。
NSX-Rプロトタイプで走ったのはわずか5周だが、これは永遠に記憶に残るものだといえるだろう。実力の高さはもちろんだが、クルマが伝える感触の確かさと明快さが、クルマを降りても手のひらにしっかりと刻まれているようにさえ感じるからである。
実はボクのドライビング・スキルで引き出せたのは、このマシンが持っている性能の6-7割でしかない。
というのもボクはかなり大きなプレッシャーを感じ、実に恐る恐るそのマシンを走らせたに過ぎない。ウェット路面であることと操作の拙さから、希に姿勢が変化してしまう場面こそあったものの、基本的には「何事も起こらないように」とかなり気を遣って非常に小さくまとめてみただけの話だ。
しかしそれだけのスキルであっても、NSX-Rプロトタイプは、初代NSX-Rや現行タイプSの限界走行以上のタイムを軽々とたたき出すほど高いポテンシャルを持ったマシンなのである。
NSX-Rプロトタイプは、非常に高いドライビング・スキルを当たり前に要求する実にシビアなクルマである。しかし、それと同時に誰にでも高性能を体感させてくれるだけの深い懐を持ったクルマでもある。つまり高められた性能は、様々なスキルを包み込んでくれるだけのゆとりをも生んでいる。
ピュアなスポーツカーだけが持つ素直な気持ちよさを、あらゆる領域で体感させる辺り、まさにトップ・オブ・タイプRと呼ぶに相応しいものである。
そしてボクはこのマシンを心からリスペクトするのである。
<関連サイト>
NSX標準仕様試乗インプレッション
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