とにかく軽くするのがレーシングカーの鉄則

ダイエットに成功すれば体の動きが軽く感じられ快活になるように、レーシングカーも軽やかな動きを実現するために徹底的な軽量化が図られている。GTカーなどの市販車をベースにしたレーシングカーはエアコン、オーディオといったレースに必要のない機材が外され、リアシートや助手席も外されて軽量化をする。もちろん、それだけではなく、材質を変えても良い部分は徹底的に軽い材質を採用し、クルマ全体のウェイトを落とす作業を行う。

軽い材質として主流になっているのがカーボンファイバー(炭素繊維)だ。かつてはアルミが種類だったレーシングカーも、現在は軽いうえに強固なカーボンを細部に採用しているのが当たり前だ。F1やGTカーのカウルもカーボンで作られており、多くのパーツは子供でも簡単に持ち上げられるほどの重量で作られている。強固なカーボンはレーシングカーの安全性を高めるという役割も担っているが、製造に手間がかかり、コストがかかることがカーボンの難点。といっても、金が無いからカーボンを採用できないというのなら、その時点でレースを戦う権利は無くなる。
今年デビュー予定のホンダHSV-010 GT。写真の通り、マシンの外観の大部分はカーボンでできている。
カーボンなどの軽い材質を利用し、細部に至るまでに軽量化を図り、規定で決められた最も軽い重量=「最低重量」に近づけていくわけだが、F1など技術レベルがハイエンドなレースではレーシングカーの重量はこの最低重量よりも軽く作られているのをご存じだろうか?

2010年のF1マシンの最低重量はドライバーの体重を含めて620kgと規定されている。ドライバーが60kgだとしてもマシンの重量は560kgあることになるが、実際のマシン本体の重量は560kgよりも軽く作られている。軽くなりすぎた分の帳尻を合わせるために用いられているのがバラスト(砂の重り)で、これを運動性能に影響が少ない適正な場所に積んで最低重量に近づけているのである。ボクサーが試合前に食事や水分を絶って規定重量に合わせるのとは逆の作業が行われているということだ。軽自動車のスズキ・ワゴンRの車両重量が約800kgであることを考えても、F1マシンは相当な軽さであることがよく分かる。
F1マシンはオモリで調整しなくてはいかないほど軽い。
【写真提供:Bridgestone Motorsport】

パワフルなエンジンがあれば大丈夫?

レーシングカーの速さを語る上で、一番関心が強く注がれるのが心臓部となるエンジンだ。いかに良い車体を作っても、エンジンのパワーが弱ければストレートでビュンビュン抜かれてしまうから、レーシングカーにはよりパワフルなエンジンが必要になる。

かといって、エンジンのパワーが強いだけではいけない。エンジンはレーシングカーの中で最も重いものになるので、エンジンはできる限り軽く、コンパクトであることが理想である。コンパクトにすることによって、エンジンを適正な位置に配置でき、他のパーツへの影響を最小限に留めることができ、運動性能の向上にもつながっていく。場合によってはマシンの形状を小さくすることができるので、空気抵抗の低減にもつながるのだ。
ホンダが2008年のF1用に製作した2.4リッターV8エンジン、RA808E
【写真提供:本田技研工業】
決められた排気量の中で、コンパクトでパワフルなエンジンを作ることはレーシングカー製作で非常に重要だ。しかし、それだけを追い求めて攻めすぎた作りになってもいけない。エンジンの内部や動力に関連する多数のパーツがそれぞれうまく働いてくれなければ、理想的なパワーは出せないし、何よりエンジンが壊れてしまう。信頼性のないエンジンはチームやドライバーのモチベーション低下を招いてしまいかねない。このようにエンジンの開発は特に高い技術が必要な分野でもある。

とはいえ、最近のレーシングエンジンは突然ぶっ壊れることが少なくなった。特にF1では20年前と比べると驚くほどエンジントラブルによるリタイアが少ない。これはエンジンの技術だけでなくレーシングカー全体の技術が向上した証明でもある。今やガソリンエンジンの技術開発は行きつくところまで行ったと言われており、最近では開発コストの高騰も相まって、F1のように回転数を制限したり、何レースか連続使用しないといけない規定を採用しているレースが多い。また、自動車メーカーはディーゼルエンジンやバイオエタノールを使用したレーシングエンジンを開発しており、技術開発と共にエコロジーのPRにも力を注いでいる。

次のページではエンジンよりも重要な車体についてご紹介しましょう。