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産科医療補償制度ができた本当の理由は?(4ページ目)

水曜ドラマ「ギネ 産婦人科の女たち」原作者の岡井崇先生(昭和大学産婦人科学教室教授)に、作品への思いをお聞きしたインタビュー。テーマとなった産科医療補償制度は医療訴訟とつながりが深い制度です。

河合 蘭

執筆者:河合 蘭

妊娠・出産ガイド


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お話し下さった岡井先生の書いた医療ノベル『ノーフォールト』(早川書房)。現役医師が医療訴訟を描いた小説として注目されました。
河合 今までは、赤ちゃんの脳に障害が残った方が「なぜ、こういうことになったか知りたい」と原因究明を願えば、医療訴訟を起こすしかなかったと思います。でも今回の制度ができて、加入施設で出産し補償の対象となれば誰もが原因分析を受けられるようになったのですね。

岡井先生 そうです。今までは、脳性麻痺が起きればかかっていた産婦人科医からの説明は聞けるでしょうが、それに納得できなければ訴訟を起こすしかありませんでした。訴訟を起こさないお母さんは、もやもやしていてもそのままになってしまいます。また裁判を起こしても、敗訴すれば補償金がもらえませんでした。

この原因分析に関わって頂く医師は大学医学部で講師以上の立場にある医師、多数の分娩を扱っている医師など全国で200名くらいになる予定です。これくらいの規模でなければすべてのケースについてカルテを詳細に検討することはできません。また委員会には弁護士や一般人も入ります。

河合 原因究明の仕組みとして、医療訴訟と今回できた原因分析委員会ではどのような違いがありますか。

岡井先生 裁判では公正な判断ができているとは思えません。大体「明らかにどちらかが悪い」というようなものははじめから裁判になりませんから、裁判というものはとても判断が難しいケースを扱っています。ですから、医師に過失があったかどうかの判決は、弁護士の腕の良さや、一個人である鑑定人の意見が決め手になったりします。

そもそも、医師と患者が争うといいことがありません。争いごとになると、実は、原因はわからなくなるのです。おたがいに「負けまい」として自分たちに不利なことは言わなくなってしまうから、真実が出てこないのです。そうすると「再発防止のためにどうしたらいいか」という次のステップにつながっていきません。

医療というものは、常に最善の医療を提供できればそれが理想ですが、そういうことはあり得ません。現実の医療は、最善と最低の間のどこかでやっています。ですから、いつでも反省すべき点はあります。正直にすべてを話しても、その責任を追及されないシステムのあることが、そしてそういうことをすべて書き出す場があることが、医療の向上のためには大切なのです。


>>さあ、この制度で、医療訴訟は減るのでしょうか?>>
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