イラスト・平井さくら |
男女を簡単に選べてしまう検査
2004年2月に朝日新聞他各紙が報道した記事によると、大谷産婦人科では、望まない性なら中絶を辞さない、と言った「男女産み分け」の希望者にこの検査を実施しています。理由は、中絶よりも、受精卵の段階で選別をした方が倫理的にも女性の心身にも問題が少ない、というものでした。
これは、習慣流産に較べ、多くの人が倫理的な問題を感じる理由だったと思います。でも、着床前診断が、技術としてこんなことも可能だということは考えておかなければなりません。
また、今は、胎動を感じるくらいの時期に羊水検査で診断されているダウン症もわかります。そのため、受胎前に検査できる着床前診断が容認されると病気への差別が広がるのではないか、ということも危惧されています。
中国やインドでは、男女比がおかしくなっている
そもそも「どんな赤ちゃんを産むか選べる」ということは、どういうことでしょうか。
極端な話かもしれませんが、未来には、「頭がいい」「スポーツが得意」なども、着床前診断でわかるようになるかもしれません。「私は、頭のいい女の子が欲しいわ」と、条件にあった受精卵を選んで子宮に戻す‥‥そんな風景が未来の"賢い妊娠スタイル"だとしたら?
中国では「跡取りになる男の子を」と思う人が多くて、一人っ子政策時代に男の子が増えてしまったそうです。おそらく、超音波検査で性別がわかった時に中絶する人がいるのでしょう。
インドでは、女の子が結婚するときに大金がかかるので、やはり男の子が増えました。この、多くなってしまった男の子たちは、親の願望は満たしたかもしれませんが、将来は結婚難に悩むでしょう。
赤ちゃんは誰のために生まれてくる?
赤ちゃんは、誰のために、何のために生まれてくるのでしょう?親を喜ばせるためでしょうか?
日本には「子供は授かりもの」という概念があります。現代では薄れつつありますが、これは、楽しいことばかりではない、長い子育てを支えてくれる考え方でもあります。
欧米には、着床前診断を国が容認しているところがたくさんあります。しかし規定が設けられていて「治療が出来ない重篤な病気」に関わるケースに対象を絞っているところが多く、曖昧な規定ながら、「これは慎重になるべき検査だ」という態度をとっています。
ノルウェーでは、国の規定に「生まれてくる子どもの性の選択を目的として受精卵の検査をおこなうことは禁じる」とうたいました。
日本は現在、国としては容認も、規制もしていない状態です。学会は、国が動き出してルールを作ることを求めています。慎重な議論を期待したいと思います。
新しい出正前診断「着床前診断」
(1) 着床前診断は流産を救う?
(2) 出生前診断と男女産み分け