「時空」を超えて出会う三文豪と金沢の旅
金沢には近代文学史に名を連ねる著名な3人の作家がいます。徳田秋聲(とくだ・しゅうせい)、泉鏡花(いずみ・きょうか)、室生犀星(むろお・さいせい)です。地元では親しみと敬意を込めて「金沢の三文豪」と呼んでいます。作品は文学的に楽しめるだけではなく、明治・大正・昭和の近くて遠い時代の人たちの生活の様子や生き様をも教えてくれます。三者三様の個性は育ってきた金沢での環境に強く影響されており、三文豪の世界に触れることで、ひと味違った角度からこの町を知ることができます。
今回は三文豪それぞれの記念館を紹介します。たとえ作品を読んだことがなくても気軽に訪ずれることができるスポットですよ。
徳田秋聲記念館
川端康成に「日本の小説は源氏にはじまって西鶴に飛び、西鶴から秋聲に飛ぶ」と言わしめ、田山花袋や島崎藤村らとともに自然主義文学の担い手となったのが徳田秋聲(1871~1943)です。 秋聲は下級武士の息子ですが、当時は明治維新後の混乱期であり、武士にとっては苦しい時代でした。徳田秋聲記念館は、金沢に流れる2本の川のうちのひとつ浅野川に面して建っていますが、家計が苦しい秋聲の一家はかつてこの界隈を転々としました。お茶屋や芝居小屋などが並ぶ華やかな地域で、芸妓さんたちの艶やかな姿を見る機会がよくあったようです。秋聲は「女性を書かせては神様である」と言われています。館内には「かび(正しくは漢字表記)」「あらくれ」など5つの代表作品のヒロインを和紙人形にした「人形シアター」があり、5人の女性が映像とともにドラマチックに紹介されていきます(約12分の上映です)。
秋聲の家は現在も東京の本郷にあり都の史蹟に指定されていますが、記念館には書斎が再現されています。また、老眼鏡をはじめ、すずりやたばこなど、愛用していた日用品も展示されていて、より秋聲を身近に感じられます。
中には、師匠であった尾崎紅葉からもらったハサミなどもあり、当時の文学界のつながりを垣間見ることができます。
2階に上がると、目の前に金沢の景色が広がります。ガラス張りになっていて、浅野川の流れや風流な木造の橋「梅ノ橋」が見えます。ここでは、映画監督で脚本家の新藤兼人氏や秋聲の孫の徳田章子氏のインタビュー映像を見ることができます。
館内の収蔵品は約3000点ですが、ここにはその中から選ばれた代表作の初版本や自筆の原稿、師・尾崎紅葉の朱が入った原稿など、リアルな作家活動の様子が伺える貴重な資料が展示されています。
徳田秋聲記念館は、人気の観光スポット・ひがし茶屋街から歩いて数分のところにあります。
住所:金沢市東山1-19-1
TEL:076-251-4300
観覧料:300円
開館時間:9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日:年末年始(12月29日~1月3日)、展示替期間
アクセス:金沢駅から路線バスで約8分「橋場町(はしばちょう)」下車徒歩約3分
☆市内の15の文化施設で利用できる共通観覧券もあり(有効期間が1日500円、3日間800円、1年間2000円)
利用できる施設の窓口で購入できます
次ページで、泉鏡花記念館を紹介します。