1970年代までの日米英の教育政策に大きな違いはありませんでした。その後、米英では、重要性を増す科学技術に対応するため、理数教育の充実を図ってきたのです。それに伴い、米英でも、日本と同様いわゆる「落ちこぼれ」問題が多発しました。
しかし、米英は教育レベルを下げることなく、教師の指導力アップ、教材の工夫、また生徒の能力に応じた教育機会の提供などの改革に当たったのです。日本が教育レベルそのものを下げたのとはまったく異なります。
アメリカでは1980年代の個性重視の教育が数学と理科の学力低下を招いた反省をふまえ、読み書きと数学・理科の強化を最重要課題としており、慶応大学の戸瀬教授(「小数ができない大学生」の著者)によれば、今のままでは日本は1980年代のアメリカと同じ間違いを繰り返すことになると指摘しています。
文部科学省は今回の教育改革の背景に「大学生の学力低下」をあげており、改革によって、「大学生の学力を向上させる」ということなのでしょうが、多くの大学教授は、逆に「大学生の学力がさらに低下する」と指摘しています。
そこで、「2002年度からの新指導要領の中止を求める国民会議(略称 NAEE 2002)」というサイトでは、大学の教授が中心となり、新指導要領の中止を求め、署名活動が行なわれています。
さて、この学力低下に拍車がかかるとの多くの声に対し、文部科学省はどのように応えているのでしょうか。
(Q)
教える内容を3割も削減して、子どもの学力が低下しませんか。
(A)文部科学省の回答
教育内容の厳選により、確かに、共通に学ぶ知識の量は従来に比して減ることになります。しかし、ゆとりをもって読・書・算などの基礎・基本をしっかり習得するようにしたり、学ぶ意欲や学び方、知的好奇心・探究心を身に付けることによって、むしろ[生きる力]としての学力の質を向上させることができます。
また、共通に学ぶべき内容は厳選しましたが、生徒が選択して学習できる幅をこれまで以上に拡大していますので、生徒の特性等に応じて、生徒の意欲的・主体的な学習がより活発に行われるようになります。
(★)
「新学習指導要領を勉強しよう!」(Close Up)でも述べましたように、学習内容を3割削除したため、例えば、社会や理科では、より多くの例を比較したり、検討したりすることができなくなり、子どもたちが新たな事実を発見し、疑問を探求する芽が摘み取られてしまうのではないかと、言われています。
はたして文部科学省が思い切って厳選したという基礎的、基本的な内容のみの学習で、子どもたちは、学ぶ意欲や学び方、知的好奇心・探究心を身に付けることができるのでしょうか。
「学ぶ意欲や規律は基礎基本の反復から生まれる。学習量が減っても、理解度が増せば学力は向上するという新学習指導要領は科学的ではない。」と東北大の川島教授は話しています。
この教育改革の背景には、「社会道徳の低下現象及び犯罪の低年齢化」というのがありましたが、「計算で発達する脳の前頭前野には、行動を抑制する機能がある。“キレる”子どもの増加 は学習がやさしくなったことへの警鐘。」と、脳科学の専門家も基礎を反復する重要性を指摘しています。
その他にも、国民からの疑問や不安が高まっており、文部科学省はホームページ内にQ&Aコーナーを設けて、それらの疑問に応えています。
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