土地活用のノウハウ/土地活用のはじめ方[貸す・売る・建てる・等価交換]

うっかりでは済みません、借地契約での判断ミス

借地借家法(および旧借地法)における借地人の権利は強力です。地主さん泣かせの法律と言われていますが、それはあくまで借地人に「権利を失うに至るような契約違反行為が無い場合」での話です。強い借地人といえども、ひとたび重要な判断を誤ると、すべてを失うことになります。土地を貸すとき、借りるとき、なによりも大事なことは、「両者が円満であること」、「尊重し合える信頼関係を築くこと」です。

谷崎 憲一

執筆者:谷崎 憲一

土地活用ガイド

甘い見通しに乗ってしまった借地人 

お寺からの借地は、結構多いものです

お寺からの借地は、結構多いものです

土地を貸すとき、借りるとき、なによりも大事なことは何でしょうか?それは、「両者が円満であること」、「尊重し合える信頼関係を築くこと」と、私(谷崎)はそう思っています。

円満な信頼関係が壊れ、大変な悲劇となった事例を紹介します。

Mさんという借地人がいました。土地を賃借し、そこに自宅を建てて住んでいました。地主はあるお寺さんでした。旧借地法がまだそのまま適用されている土地におけるケースです。

ある日、Mさんに、小さな工務店を営む知り合いのO社長が声をかけました。「Mさん、そろそろ家のリフォームはどうだろう」

自宅は老朽化していたため早速話に乗ったMさん。お寺の住職を訪ね、「リフォームしたい」と相談をもちかけました。

これを聞いた住職、リフォームというからには小規模な内装の修繕程度のことと思い、「そうですか」とすぐに承諾してくれました。旧借地法の借地においては、軽微なリフォームであれば地主の承諾料が不要な場合が多く、この時も口頭での承諾だけでした。

ところが、MさんとO社長、「ここもリフォーム、あそこもリフォーム」と検討するうち、計画はエスカレート。家の土台と柱部分だけを残してほとんどをつくり直すほどの大規模なものとなったのでした。

このときMさんは、「住職が理解している工事の内容と違っているかもしれない。ちょっと心配だ……」と、O社長に告げたそうです。これに対してO社長は、「承諾をもらったんだから大丈夫!」と、工事を開始。Mさんも、「専門家が大丈夫と言うのだから」と、安易に納得してしまいました。

しかし、実はO社長、リフォームのことには詳しいものの、借地にかかわる法律についてはほんの聞きかじり程度の知識しか持ち合わせていませんでした。

工事が8割方進んだ頃でした。お寺の有力な檀家さんが、Mさんの工事現場の前を通りかかりました。檀家さんは驚きました。そこでは足場を組み上げた大掛かりな工事が進捗中でした。「これは新築・建て替えに等しいじゃないか。こんな工事を許したのか!」と、早速住職を問いただしたのです。

「修繕程度のリフォームと聞いていた。話が違う!」と、住職。そこで檀家、総代などが話し合い、工事現場に出向いてO社長に事情を尋ねようとしました。ところがO社長はこれを無視して工事を続行。「完成したらこっちのものだ」という根拠の無い自信を彼は持っていたのでした。

この結果、Mさんと寺側は係争状態に陥ってしまったのです。怒った寺側は弁護士に相談しました。その上で、「Mさん宅の工事は当該土地にかかわる賃貸借契約違反にあたる無断工事。差し止めを!」と裁判所に訴えると、裁判所はこれを認める裁定を下しました。執行官が現場に現れて仮処分が行なわれ、O社長や部下の職人達、さらにはMさんまでもが自宅へ入れない状態となりました。


不勉強が生んだとんでもない悲劇
 

話をこじらせると大変です

話をこじらせると大変です

その後、Mさんは、強硬な態度で話をこじらせたO社長をお寺との交渉窓口から外しました。その上でお寺側に泣き付きましたが、もはや信頼回復は得られません。

すでに裁判所の判決によって契約解除のための正当事由が成立している状態です。ほとんど完成に近い状態の建物を解体の上、無償で借地権を返還する以外、Mさんには選択肢が無くなりました。

それでもその後、Mさんは家族を挙げての涙ながらのお願いを続け、やっとこの契約の解除を「合意解除」としてもらうことが出来ました。合意解除にもとづくわずかばかりの解決金を受け取って土地を立ち去るのが、Mさんの精一杯でした。

工事の前に、図面を添えるなど、地主に正しく計画を伝えて理解を得、承諾をもらっておくべきだったMさん。その承諾も書面できちんともらっておくべきだったでしょう。自分のもつ権利=借地権のことをよく勉強していなかったため、大事な権利だけでなく財産までをも一挙に失うことになったのです。

かかった工事費は総額で約3,000万円。建物を手壊しし、新築に近い状態の賃貸併用住宅に作り替えていたため、単に新築するよりも高くついていました。Mさんは蓄財をすべて工事費に注ぎ込んでいました。

そんな結果でしたから、工務店のO社長も当然工事代金を回収することなどできません。そればかりか、自分のすすめに応じて家を失ったMさんへの責任を負いきる資力もなく、社員3人の小さな会社は破綻。勉強不足のまま借地権者へ工事をもちかけた責任を感じながら、下請けや債権者、そしてMさんにも追われ、逃げ回る日々となりました。

借地借家法(および旧借地法)における借地人の権利は強力です。地主さん泣かせともいわれる法律です。
(All About > 住まい > 土地活用 > 土地活用の手法・実例 > 土地を貸す・売る・等価交換 > 「土地を他人に貸すとき、気をつけたいこと」をご参照ください)

しかし、それはあくまで借地人に「権利を失うに至るような契約違反行為が無い場合」での話です。強い借地人といえども、ひとたび重要な判断を誤ると、すべてを失ってしまうことになるわけです。

借地人による、借地上の建物の
・無断増改築
・無断建て替え
・無断用途変更

同じく借地権の
・無断権利譲渡、

さらに、
・賃料(地代)不払い

以上は、地主による契約解除の正当事由となることを忘れてはいけません。自らの持つ大切な権利について、しっかりと勉強し、守ることがとても大切です。

※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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