年金/厚生年金保険料の計算方法

給与1円差で、厚生年金保険料に大きな差ができる?

毎月なんとなく給与から天引きされている厚生年金の保険料。その計算方法には年金ならではの少し特殊な事情があります。同じ年収でも月給制と年俸制で保険料に差が出たり、給与がたった1円違うだけでも大きな差が出たりするのです。その理由は?

和田 雅彦

執筆者:和田 雅彦

年金ガイド

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給与に比例して保険料も高くなる厚生年金保険料

会社員の皆さんの給与から毎月天引きされている「厚生年金保険料」。この保険料がどういう仕組みで決まるのかということは、あまりご存じないのではないかと思います。
厚生年金保険料の半分を会社が負担していることはあまり知られていない

厚生年金保険料の半分を会社が負担していることはあまり知られていない

自営業者や学生の皆さんが加入する国民年金の保険料は、月1万6590円(令和4年度)の定額です。「定額」ですから本人の所得の多寡にかかわらず同じ保険料を負担しています。

一方、厚生年金の保険料は「毎月の給与(標準報酬月額)×保険料率」で算出することになっています。したがって給与が高くなれば、基本的に保険料も高くなる仕組みということになります。

ちなみに現在の保険料率は18.3%(平成29年9月以降は固定)で、給与はもちろんボーナス(賞与)についても同じ率で保険料を算出することになっています。なお、保険料の半額は会社が負担しているため、会社員の皆さんの負担は半分の9.15%となります。
 

厚生年金保険料の計算にはちょっと特殊な事情がある

厚生年金の保険料は、「毎月の給与(標準報酬月額)×保険料率」「ボーナス×保険料率」で計算されるのですが、保険料の計算における「毎月の給与(標準報酬月額)」「ボーナス」の額は、少し特殊な事情で決まっています。

まず、給与については、金額に応じたランクが設定されています。一定の範囲内にある給与は同じランクとなります。このランクを等級と呼んでいて、現在「1等級」~「32等級」まであります。例えば、給与が「29万円以上31万円未満」については、19等級(30万円)となります。
 
同じ等級であれば、同じ保険料になります。したがって、先ほどの「給与が29万円以上、31万円未満」、つまり19等級の人の毎月の保険料は5万4900円(平成29年9月~)です。これを会社と本人が折半して負担しているので、実際に給与から天引きされるのは、月2万7450円となります。

※厚生年金保険料のランク(等級)、保険料の詳細は日本年金機構の厚生年金保険料額表(PDF)で確認できます。
 

たった1円の差でランクが上がり、保険料も大幅アップ!?

先ほどの「給与が29万円以上、31万円未満」のランクは、保険料額表を確認すると、19等級の標準報酬月額30万円となっています。この19等級は31万円未満までですから、給与が31万円以上になると20等級にランクアップとなります。

ランクアップは、つまり保険料アップということです。極端に言うと、給与が30万9999円なら19等級で、毎月の天引額は2万7450円ですが、給与が31万円だと20等級で、毎月の天引額は2万9280円。給与がたった1円違うだけで、月1830円の差。年間にすると2万1960円の差となります。少なくない「差」ですね。

当然ランクが高いと将来受け取れる年金も増えることになりますから、一概に損とばかりは言えません。しかし、保険料の観点から見ると、たった1円の違いで保険料が大きくアップするのはちょっとつらいですね。

一方ボーナスの保険料については、原則1000円未満の端数は切り捨てるものの、等級というものはなく純粋に「ボーナス×保険料率」で決まります。
 

保険料のランクは、毎月4、5、6月の給与で決まる

先ほどから何度も出てくる「ランク(等級)」ですが、これは毎月変動をするものではなく、原則1年間同じランク(等級)のまま据え置かれます。
厚生年金と同様に天引きされる健康保険も、同じ算出方法で保険料が決まる。ただし、上限は健康保険のほうが高い

厚生年金と同様に天引きされる健康保険も、同じ算出方法で保険料が決まる。ただし、健康保険は50等級まである

この1年間のランクは、毎年4月、5月、6月に受け取る給与の平均で決まります。給与には残業手当や交通費も含まれます。したがって、同じ基本給でも4、5、6月に残業が多い人や、交通費の多い人は給与総額が多くなりますので、それだけランクが高くなります。

ですから、残業時間を年間を通して調整できるなら、4、5、6月の残業を抑えることでランクも抑えられるということになります。先ほども書きましたが、会社も保険料を負担しているため、会社全体でこの時期の残業を抑えるなんてこともまれにあるようです。会社にとっても、個々の従業員の等級が上がればコストも増えるので、コストを削減したいということなのかもしれません。
 

同じ年収で保険料に大差が!?

このランク(等級)のもう一つの特徴は、「上限」があることです。厚生年金のランクは、32等級(63万5000円以上)より上はありません(令和2年9月~)。したがって月給65万円の人も100万円の人も同じランクになり、同じ保険料ということになります。

ボーナスについては、1回につき150万円を上限としています。したがって、150万円も300万円も同じ保険料ということになります。

ここで、また大きな「差」が発生してしまいます。具体例をあげて、検証してみます。

同じ年収900万円のAさんとBさんがいるとして、Aさんは「年俸制」、Bさんは「月給+賞与制」だとします。

年俸制のAさんは、900万円の12分の1が月給となりますから、月額75万円。一方、月給+賞与のBさんは、毎月の給与が60万円で、夏と冬のボーナスでそれぞれ90万円とします。

●AさんとBさんが負担する保険料額
(平成29年9月~の保険料率で計算)

Aさん(年俸制):月給のみ75万円(900万円÷12)
→毎月の保険料(32等級)5万9475円
年間71万3700円(5万9475円×12カ月)

Bさん(月給+賞与):月給60万円+賞与90万円×2回
→毎月の保険料(30等級)5万3985円、ボーナス時8万2350円
年間81万2520円(5万3985円×12カ月+8万2350円×2回)

AさんとBさんを比べると、年収は同じなのに、保険料で年間約10万円もの差が出てきます。ここまで差が出るとは驚きですね。ある程度の年収(だいたい800万円以上)の方が、この2つを選択することが可能であれば、保険料的には年俸制を選択することが有利だと言えます。

今回の検証は「保険料」を支払うという観点から行っていますが、将来年金を受け取る観点から考えると、全く逆の考え方(等級を上げる。月給制を選択する)になるわけです。先ほども触れた「多く保険料を払えば、多く年金を受け取れる」ことも忘れずにいたいですね。

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