ワイドポーチ、ワイドステップ
外部の車椅子対応のポイントは玄関にあると思います。玄関経由で道路までの車椅子アプローチが可能なら、庭やカーポートを経由させるルートを検討しなくて済み、車を移動させる必要もなくなります。玄関内部は以前実験でも示したように、約18cmの段差であれば1.2mの携帯スロープ(図6)を設置して車椅子を上げ下ろしすることが可能でした。但し高齢の介助者の場合は勾配を緩くするためより長いスロープが必要かもしれません。重要なのはスロープを下りた部分にスペースが取れるかどうかで、直線的に玄関ドアに向けてスロープで降りていく構成とすれば玄関ポーチに降りることができます。またスロープでは常に低い方に介助者が居て、身体全体で車椅子の重さを受け止めて後ろ向きに降りることになります(図7)。
車椅子に干渉せずにドアの開閉ができ、方向転換もできるように玄関ポーチの広さを確保することが必要になります。玄関を引き戸にできればいいのですが、実際には開きのドアであることが多いと思いますので、ドアの開閉スペース(作動域)と車椅子を止めておくスペースが重ならないように計画します(図8)。
玄関ポーチに後ろ向きで降り、方向転換したら道路に向けての移動になります。スロープを設ける場合は最低基準では勾配1/12(120cm行って10cm上がる)ですが、実際に押してみると高齢者では無理と感じます。1/15から1/20の勾配にしたいところですが、これでは30cmの段差を下りるのに4.5m~6mの長さが必要になり、なかなかスペースが取れないのが実態でしょう。
そこでワイドステップ、つまり階段の1段ずつのスペースを大きくとり勾配を緩くすることで車椅子を移動させるというアイデアが出てきます(図9)。具体的には1段ずつ90cm以上の長さを持たせ、段差を10cm前後とします。例えば自転車は階段を上り下りできませんが、10cmの段差は乗り越えることができます。車椅子も同じように前輪を上げる(ティッピングといいます)ことで自転車タイヤと同じようなサイズの後輪は10cm程度の段差をクリアできるのです。こうすれば30cmの段差を2.7mで通過することができ、実際に階段状の部分は1.8mとなります。
このようにワンルーム化やワイドポーチ、ワイドステップといったアイデアを用いれば、廊下を広げたりスロープを設けることなく、コンパクトにバリアフリーを実現することができます。二世帯住宅の親世帯では加齢配慮は必須だと思いますので、家造りの際は取り入れてみてはいかがでしょうか。