ところが、この現物返上、なんとなく手持ちの株式を返上するのは不可で、東京証券取引所に上場されている株式一式(1,500社にもなります!)でパッケージにしなければならないことになりました。確かに、企業年金の運用ではたくさんの株式を組み合わせています。しかし、株価が安定した大企業の株式を中心に組み合わせているところが多く、実際に1,500社の株式を持っているわけではありません。
企業のほうも悩んだあげく、無理に株式一式のセットを作るより現金化する選択をするようになりました。結局、全国の厚生年金基金から(特に大企業の株式を中心に)売りが増えるようになりました。買う人より売る人が多いので株価はじりじりと下がることになります。それを見た一般の投資家なども値下がりが不安になり株を売るようになります(ある意味、買いのチャンスなのですが)。
最近の「代行返上売り」に伴う株価の値下がりは、おおまかにこんなプロセスで起きているものなのです。
■それでも会社が代行返上したい理由は?
代行返上をすることで自分たちの会社の株価が下がるというのに、代行返上に踏み切る会社の思惑はなんなのでしょう? そこには、「それでも国の厚生年金の一部を会社側で責任取って運営するほうがキツイ」という会社の本音があります。
というのも、「そのまま国に厚生年金の保険料を納めて年金で払うのも国に任せておく」ほうが、「会社側で厚生年金基金を作って厚生年金の一部を積み立てて運用して年金を払う」より会社にとってはラクなのです。積み立てて年金を払うだけならそれほど手間ではないのですが、「運用して年金を払うのに必要な金額まで増やす」のが、今はもう大変なことなのです。むしろ知恵を絞って運用するとマイナス10%になるくらいです。
厚生年金基金が広まった20年前くらいはむしろ、「国の厚生年金の一部を積み立てて運用すると必要な金額以上に増えて助かる!」というくらいでした。オーバーした分については社員の企業年金オリジナル部分をベースアップしたりする財源に使っていました。だからこそ厚生年金基金は会社側に喜ばれて広まりました。
しかし今は違います。「国の厚生年金の一部に見合った年金を準備するのに、費用は国の厚生年金の一部相当より高くつく」状態になっているのです。なぜなら、運用しても必要な金額に足りないため、会社が追加負担で穴埋めせざるをえないからです。つまり、厚生年金基金なんてないほうが、余計な負担が生じなくてすむというわけです。