一時的な株価の下落で国を攻める愚
ところで、こうした議論を見ていると、一時的に株価が下落すると必ず、国の年金運用はへたくそだと罵る人が登場してきます。これも実はいい加減なコメントです。まず、どんな「プロ中のプロ」であっても、国であっても、マーケット全体がマイナスであるときにプラスで居続けることは困難だからです。社会がダイナミックに上下することは健全なことでもあり、それを個人や国が御することはできないからです。
(一度も下落せず、毎年3%ずつ固定的に成長していく社会が健全といえるでしょうか? むしろそういう社会のほうが歪みは増すと思います)
基本的に、資産運用は市場の平均的上下動を超えて儲けることは困難だと理解するべきです。特に年金運用のように巨額の運用をしている場合、リスクを抑える必要もありますので、個人がやっているように好き勝手に売買できるものではありません。どんな経済環境でもプラスの運用をするべきという意見は正直不毛です。
しかし、経済が完全に予想し得ないものであるからといって、国も無力なままでいるわけではありません。悪口を言う人は知らないと思いますが、実は、こうした株価下落時期にこそ、国の年金運用にとって収益獲得の絶好のチャンスが眠っているからです。
実は国の年金運用は株価が下がれば下がるほど株を買い足します。こうしたタイミングに、株を買うというと常軌を逸していると思う人が多いでしょうが、実はこれはリバランスと呼ばれる機関投資家の基本的な投資手法です。計画上保有してもよいと定めた投資比率に達するまで安値になった株式を購入します。
そして、株価が上昇した局面においては、これを徐々に売り払っていきます。なぜなら計画上保有してもよいと定めた比率をオーバーしてしまうからです。つまり上がれば上がるほど株を売り払っていきます。
結果として、国は年金運用において、安値で仕込み高値で利益確定していくことができます。なぜ、過去4年間で年金運用が19兆円もの利益を上げることができたか。それはまさに安値で仕込んで(簡単にいえば日経平均が8000円の頃に買う)、高値で売り払ってきた(簡単にいえば日経平均が18000円頃に売り払う)からです。
今はまさにその「安値仕込み」のタイミングが何年かぶりにやってきたといえるのです。
長い目で見ると株価が下落したということは、安値で仕込むチャンスです。そのとき、すでに持っている資産の価値が一時的に下がることになりますがそれは当然のことです。それをあげつらうかのように悪口を言うことは意味がありません(きちんと現状把握をして情報公開することは重要ですが)。ましてや、今株を買い足していることに文句を言うこともナンセンスです
ついでにいえば、国の年金資産が安く株を買い増すということは、市場を支える役割も担っています。「下がっているのに年金で株を買うな」という人もいますが、そんな意味合いも理解して発言してほしいなと思います。
一時的に株価が大きく下落すると短期的な視点で、その損失をどうこういう記事が多くあふれます。「世界の資産が一夜で○兆円減った」とか、確かにその通りですが、だから許されないことかはまた別の話です。
世の中にはいろんなコメントが溢れています。その一部は根拠は薄く、ただいたずらに読者や視聴者を不安に陥れるものもたくさんあります。皆さんは適度な知識と適度な知恵(疑う力)をもって、こうした情報を整理・収拾していただければと思います。