年金支払いは運用のマイナスで滞らない
国の年金運用が失敗すると、本当に年金受給開始年齢が下がるようなことはあるのでしょうか。国の年金運用が預かっている資産は現在91兆円ほどあります(2008年3月末。GPIF資料より)。仮に10%目減りすると9兆円が消える計算です。とてつもない額です。確かに年金の支払いに支障が出そうな気がします。
しかし、このうち日本の株式や外国の株式・債券などのリスク性資産に振り向けられているのは38%程度です。つまり34.6兆円ですから10%目減りしたとしても影響は3.5兆円程度ということになります。実際問題としては10%以上下落しているのが実態ですから、仮に20%として7兆円マイナスだとしましょう。
マイナス額に対して、年金の支給額はもっと巨大です。一年間に支払われる公的年金額はおおよそ44兆円です(2006年度)。また、毎年保険料や税金から集めた金額も46兆円あります(ちなみにこの年度は運用収益が+6.3兆円含まれています)。7兆円の運用不足が生じたとしても、一時的に時価が下落したことによる影響で、年金が支払えなくなるほどのものではありません。
今ある年金の積立金は、今日や明日の保険料支払いに用いられるものではありません。もっと長期的に(少子高齢化が進んでも)支障なく年金が支払い続けられるように用意されているものです。
また、まだ累積で運用益を残しており、まだ10兆円ほどの余裕を残しています。少なくとも今年だけを取り上げて一時的に7兆円のマイナスがあっても、あわてる必要はないのです。要するに、「運用悪い→年金下がる」的議論は短絡的に過ぎるわけです。
また、68歳という理由もよく分かりません。すでに次回の年金改正(2009年に行われる予定)について方向性が議論されていますが、受給開始年齢の引き上げは一言も話題になっていません。
厚生労働省の社会保障審議会年金部会というところで議論された資料はすべて公開されていますが、次回へ向けて積み残した改正の課題等として10点ほどの課題が指摘されています。しかし、誰も引き上げ年齢の見直し(しかも運用低迷を理由とした)について指摘をしていません。
確かにアメリカやドイツではすでに67歳に年金の受給開始年齢を引き上げることが決まっています。イギリスは68歳になるそうです。日本は世界一の長寿国でありながら、受給開始年齢は65歳であり、早いほうだといえます。しかし、これは少子高齢化に伴い受給期間があまりにも長くなりすぎることやそれに見合った健康問題・高齢者雇用環境と合わせて議論されるものです。
私も受給開始年齢の引き上げは検討が必要な課題と考えていますが、どうもニュースを見る限り、そういう文脈ではなく、運用低迷からの思いつきで発言されているように見受けられました。もし「年金運用が一時的にマイナスであるから68歳」と考えているのだとしたら、これもあまりにも短絡的です。
>>株価が一時的に下落したらとにかく運用を悪く言うのはナンセンス