今年の温泉ベスト10!日本を代表する温泉研究家、郡司勇(温泉レポート)と、藤田聡(日本の名湯)両ガイドによる、年末恒例の特別対談!互いの温泉観も含め、今年も温泉好き必見の奥深い対談となりました。
それでは今年も早速、温泉好きによる、温泉好きの為の対談を始めます!
なお、対談の前半は、日本の名湯の今年の温泉ベスト10 <2007年 対談前編>にあります。
また、主旨説明は昨年の冒頭にありますので、今年初めてご覧頂いた方は、昨年の対談も合わせて参照願います。
今年の温泉ベスト10 <2006年 対談前編>
今年の温泉ベスト10 <2006年 対談後編>
湯の新鮮さと相反する個性
緑色の名湯、熊の湯温泉 |
<藤田> 対談の前編では「温泉をいかに評価するのか」について議論して来ました。ここからの後半では、温泉の評価に影響を与える、様々な要素について、考えてみたいと思います。
まずは、フレッシュさについてです。温泉のお湯も、基本的には新鮮な方が良いに決まっています。しかし、例えば含鉄泉などは、湯が劣化することで、含有する鉄の錆びた色が出て濁り湯になります。こうした赤い濁り湯は、「赤湯」と呼ばれて熱烈なファンが多いのも事実です。その一方で、湯治の観点では新鮮な透明湯の方が、効能も期待出来て好ましいと思われます。こうした相反する要素を、郡司さんはどのように捉えていますでしょうか?
<郡司> 温泉は新鮮なものが一番であると、角川新書で執筆しました。ほとんどの温泉ではそれが言えます。主に単純泉、炭酸泉、硫酸塩泉、酸性泉、放射能泉、重曹泉などです。しかし一概に新鮮さだけでなく、熟成によって湯の表現が厚みを増してくる温泉もあります。
これは含鉄泉や明礬泉、食塩泉、硫黄泉などの金属イオン、および硫黄分が含有されている泉質です。これらは時間の経過と共に温泉成分が析出して、色が変ってくる、または匂いに昇華されてくるという特性を持っており、刻々と変化します。そのため、奥深い泉質でもあります。鉄分の含有量によって、色が薄褐色から緑色、褐色、赤色に変化してくるのは楽しみです。悪く言えば劣化ですが、適度な新鮮さを持っていれば熟成といえると思います。新鮮すぎて透明な鉄鉱泉は、飲まないと分かりません。また食塩泉も同様なことが言えます。硫黄泉は特別で七変化と言われ、透明から白濁、緑色、黒などになります。さらに、その中間の緑白濁や灰色などにもなり観察していて興味が尽きません。
この話は、かなりレベルの高い温泉の使い方の話で、新鮮さはある程度必
要であるのは当然です。上の硫黄泉、含鉄泉、食塩泉についても循環であ
ればすべてまっさらな湯になってしまうのです。
強酸性泉の硫黄島東温泉 |
<藤田> いやあ、郡司さん流石です。またしても、いきなり核心部分に
言及頂き、ありがとうございます。
泉質によって熟成が有り得るものと、鮮度最優先でかまわない泉質があるとのご指摘は、素晴らしい卓見で、本当に恐れ入りました。私が過去に熟成の良さを感知した温泉も、ご指摘の通りの泉質でした。
多くの食品が熟成させて、味わいをより引き出すことがあるように、私は温泉でも劣化して個性が増した状態にも、一定の価値があるとずっと思っていました。今回、郡司さんに具体的に指摘頂いて、不思議な話ですが、一種の安心感を覚えました。ああ、やっぱりそうであったかという感じです。
もちろん、全部の湯船が劣化したものでは困ります。本来のフレッシュな湯にも浸かれる必要はあると思いますが、一部の湯船が劣化して濁り湯になっていたり、香りが一層増していて、その違いを楽しめるというのは、温泉の湯の個性を楽しむ観点では確実に楽しいし、温泉にとっても付加価値と考えて良いと思います。
また、お湯がそのように熟成し、変化することを熟知していれば、たとえ一つしか湯船が無くても、目の前の湯が、さらにフレッシュだった場合の様子と、さらに劣化した時の様子を推測して楽しむなど、温泉の楽しみ方自体に、より一層の幅と深みが出るように思っています。
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