旅館/宿・旅館関連情報

心癒される夏の湯宿

夏だからこそ行きたい。豊かな生活者が訪れるに相応しい湯宿を二個所紹介します。

井門 隆夫

執筆者:井門 隆夫

旅館ガイド

冬は寒いので休みます。

湯宿さか本
森の道をぬけると立派な宿が現れる。
「クーラーがない宿には泊まれない」とか、「虫の羽音を聞いただけでぞっとする」というような方にはお勧めできないと思います。でも、森の静寂のなかで、ささやく夏の風や、生き物の活きざまを五感で体感できる、小さな一軒宿に泊まってみたいという心豊かな方が後を絶たない宿があります。
場所は、能登半島の先端の「珠洲」。
なんともない道路傍から農道を森のなかへと入っていきます。だいぶ歩いたでしょうか。突き当りにその宿はあります。宿の名は「湯宿さか本」。
旅好きで知らない方はいない宿。でも、テレビも、電話も、冷蔵庫も、冷房も、部屋のトイレも、スリッパもない。聞こえるのは、犬と鶏の啼き声と木々の葉音。そして私たち人間の声と本のページをめくる音のみ。
玄関を入ると、黒光りする梁や床。土間にはおくどさん(竃)。年に数回お祝いの際に使うそうです。奥に長く立派な宿です。

湯宿さか本
風が通り抜ける黒塗りの廊下を進むと、洗面や浴場につながっている。
玄関の裏が居間兼図書室。食事もここでいただきます。階段を上ると風が通る六畳間が二つ。誰もが、まずはごろりと寝ころびたくなるでしょう。
洗面台は、風が良く通る廊下の途中にあります。冷たい井戸水を火照った顔にさらすだけで、体中から汗がひいていきます。廊下を先に進むと、極上の湯が注がれた浴室。少々ぬるめでも体温まる泉質です。窓からは竹林。夜、明かりを消し、窓を全開にしてホタルを楽しむのがよいでしょう。
食事は、能登の土地で取れた豆や米。自家栽培の野菜、そして海の幸。輪島塗の漆器にさりげなく盛られた料理はすべて手作りであることはひと目見てわかり、食べてなお解ります。この時だけ小さくクラシックのBGM。旅人同士の会話も弾みます。
バブルのころ・・・旅館は文明の利器で満たされ、シャワートイレが当たり前になり、「雨で露天風呂に入れないじゃないか」という苦情まで生まれ、お膳は、量ばかり多い、冷凍まぐろ、冷凍カニ、豪州産牛肉といった「赤モノ料理」で満たされ、日常の貧しさをモノで満たす時代がありました。
しかし、日本人がモノで豊かになったいま、宿には「心を満たす」機能が求められています。
湯宿さか本は、「冬は寒いので休みます」。
これも、自然とともに生きる宿の哲学。夏こそ味わいたい能登の湯宿です。



湯宿さか本
石川県珠洲市上戸町寺社
0768-82-0584(1~2月休業)
http://www.asahi-net.or.jp/~na9s-skmt/
一泊二食16,000円(税込)
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