ある日は、お忍び宿で「勝負」する。
全室露天風呂と内風呂、シャワーブースが付く。ディテールにも凝った客間。 |
05年秋、ここにできた旅館が、今人気上昇中だ。
旅館名は「金乃竹」。
敷地内に1万本の竹を植え、ライティングで陰影をつくりながら、迷宮のようなデザイニングに仕上がっている。館内は畳敷きで、大浴場はない。代わりに深夜0時まで、月夜の下、バリ風マッサージが受けられる。
10室の客間には、内湯と露天風呂が配置されている。一部屋ごとに間取りは違い、バスルームがシースルーになっていたり、リビングとベッドルームに挟まれ配されていたり、シズル感を湧き起こす仕掛けが満載されている。
箱根は、文化云々というより、近年とみに「勝負宿」が増えている。夜出て、朝帰る、お忍びゾーンとして箱根は使われるようになってきた。
ただし、若いカップル向けに造ったぞ、という「よくある安普請さ」はない。徹底的に作り込み、料理にも手を抜かない点が、ヒルズな方々にも評価されるようになってきたのだろう。
箱根外輪山の山々が部屋の借景となる。テラスの露天風呂の開放感は抜群。 |
そして、「まるで空中楼閣のような開放感」という誰もが共通の評が、この宿の特長だ。
ただ、おおかたひと通りの方が通ったようなので、これからも評価・セレブの集客を維持できるか、これからが正念場であろう。
そのために必要なのは、演出を伴った料理であり、蘊蓄を語れる文化であるかもしれない。
それにも増して、彼らが欲するのは「一般人からの遮蔽性」。金額面、空間面、情報面で、「あさば」がひとつの理想形(最高なのは都心のクラブがそうであるように会員制の旅館だろう)であるように、やすやすと誰もが予約が取れ、旅行代理店で安売りされようものなら、彼らは目を向けなくなる。そのためにも、高い稼働率をどう維持するかが、箱根吟遊に限らず、このタイプの宿の課題になるであろう。
ヒルズ族が50代になったとき、「良く通ったなあ」と懐かしむことができるよう、今後の一層のバージョンアップを期待していたい。
そして、英気を養った彼らは、翌朝、東京へ帰還する。旅館の「一部屋一部屋は、人生の縮図」であり、日本経済を支える栄養にもなっているのだ。
もしかしたら、今宵の隣室は、ヒルズな社長かもしれません。