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「スキヤキ」は、どうやって食べるものか スキヤキを考える

三重県の老舗松阪肉店で食べた「すき焼き」。どうも私の知ってる作り方と違う。すきやきって、お肉と野菜が一緒にお鍋の中に入ってるんじゃないの?この疑問から今回のテーマは出発します。

執筆者:野上 優佳子

すきやきを考える


【INDEX】
  
 老舗松阪肉店にて

 すき焼き歴史考-『牛鍋』との関係

 すきやき歴史考―東西牛肉事情


老舗松阪肉店にて、すきやきの光景

三重県松阪市にある老舗の松阪肉店『和田金』は、いつ行っても丁寧な接客と上質の松阪肉を提供してくれます。
それぞれ個室に通され、和服姿のウェートレスさんが目の前で調理してくれる昔ながらのサービスのスタイル。ゆっくり松阪肉が堪能できる空間。

食事はもちろん、併設している販売所では松阪肉のみを購入することもでき、年末に松阪肉を求める人でできる大行列は恒例行事となります。
またお食事などにお出かけになるときも、あらかじめ予約していかれることをお薦めします。


さてこの和田金で、すきやきを注文したときのこと。明治創業、松阪肉の元祖と名高い老舗の味となれば、自然と私の期待も高まります。
すると、鉄鍋で牛肉を軽く焼き、砂糖や醤油で味付けし、私のお皿の上にそのお肉を乗せ「どうぞ」と。
サシの入った松阪肉はものすごく柔らかくて、本当においしい。でも、どうも違う。野菜はどうするの?お肉だけ最初に食べちゃうの?実は私、それまで関東のすき焼き店でしかすき焼きを食べたことがなかったのです。

すきやき歴史考-『牛鍋』との関係

そもそも牛肉が食べられるようになったのは、江戸時代末期頃から。鎖国を契機に、牛肉は破竹の勢いで、庶民の間に広まっていったようです。牛肉を食べることが1つの流行になったとも言えるでしょう。
この時の様子は、仮名垣魯文の『安愚楽鍋』にも描かれています。当時の食事場を覗くことができ、なかなか面白い内容です。

では「すきやき」という言葉の由来は?「すき」とは農具の鋤(すき)を示し、この鋤を鍋代わりに使って獣肉を焼いて食べたことから生まれたようです。しかしこの時の「獣肉」とは鳥類などを指し、牛肉ではありません。

『安愚楽鍋』にまた戻ってみると、作中にある「牛鍋」が、東日本の「スキヤキ」のもととなっているのでは、と推測ができます。作中の挿絵を見てみると、使われている鍋の形は確かに今のスキヤキ用の鉄鍋とそっくり。

明治元年創業、横浜の老舗牛鍋店『太田なわのれん』によれば、牛鍋に使われる具材は、牛肉とねぎのみ。味付けは秘伝の江戸前味噌。中身は確かに「すきやき」と似ています。

ちなみに、『東京開化繁盛記』(1874)を見てみると、ここにも確かに牛肉の鍋焼きにはねぎを、薬味には山椒を使ったと書かれています。
元々牛肉は赤身が主流。ねぎや山椒を用いるところを見ると、臭み消しの役割がとても大きかったことが想像できます。

すきやき歴史考-東西牛肉事情

牛肉の産地を見てみると西日本が多いのですが、これは西日本の水田耕作に牛が使われていたことが関係しているのかもしれません。
今のように冷凍技術や、運送手段が発達していなかった頃は、当然牛肉が出回る地域も限られてきます。東日本よりも西日本のほうが、牛の保持数が多いとなると食べられる量も多いことになり、新鮮なものも入手できます。

関西風のすきやきが最初に肉を焼いて食べるというのは、他のものと混ぜなくても臭くない鮮度の良い牛肉が食べられた、また量もそれなりに入手できたということが背景にあるのではないでしょうか。
一方関東風は、牛肉の臭み消しと共に、量の少なさをカバーすべく、他のものを一緒に入れ、肉のダシも十分に利用して美味しくいただこう、という知恵なのかもしれません。

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参考文献 
『安愚楽鍋』・『全集日本の食文化』第4・8巻・『ヨコハマ洋食文化事始め』

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