旭川には旭川の気候風土に合った動物を
さらに加えて、冬の寒さがきびしい旭川という土地にあって、動物たちの環境整備には、いろいろな配慮がなされています。暖かい地域で生まれた動物の飼育施設には完全暖房が設置されていますし、いかに北海道が涼しいといってもペンギンにとって夏の暑さは耐えがたいものがあるわけですから、ペンギン舎の中は常時エアコンで温度管理がされているそうです。
「北海道の動物園ですから、本州とは違って完全冷房施設じゃなく、屋外に出れるような環境になっていてもなんとか維持できていけます。冬なんかは雪が積もったところをペンギンたちが自由に散歩していますよ。
旭山動物園には地元の野生動物や寒冷地の動物をできるだけ自然な状態で飼育していくという方針があるので、むやみやたらと希少な珍獣を集めるということはやっていません。だからパンダもコアラもいない。今後は地域に生息している野生動物をいかに見せ保全していくか、そして市民にかれらへの親しみを持ってもらい、守ってもらえるか、を追求するのが動物園のあるべき姿だと思いますね」(福井先生)
身近にいる自然や動物を守らずして、地球の裏側の動物を無理矢理連れてきて守るというのは突拍子もない考えだと福井先生は言います。そう言われて見れば、旭山動物園にいる動物たちはみんなどこかイキイキしている。無理な環境に置かれていないということと、ストレスにならないような展示方法がそれを可能にしているということでしょう。 このほかにも福井先生は、一般市民や小学生、幼稚園児を対象に生態系の保全や野生動物の保護といったことを伝えていくための環境教育にも力を入れておられ、定期的に園内でお話会を開催したり市民セミナーで講演をしておられるとか。
学校教育では、子どもたちを自然の中に連れ出してそれを守ることの大切さを教えるという機会がなくなりつつある今、動物園の獣医さんがその役割を担うしかないということですね。
野生動物を自分の部屋で飼育できると思うのは間違い
もうひとつ忘れてはならないのが公衆衛生の問題です。
「野生動物というのは、いろんな未知の感染症を持っている可能性があります。いま地球規模で高病原性鳥インフルエンザやBSE、エキノコックスやSARSといった野生動物から人に感染する可能性のある病気が出てきました。そうした危険から入園者やスタッフたちを守るということにも私たちは深く関わっていて、思わぬ事態が起こらないよう常に糞便検査や血液検査を行って観察を続けています」(福井先生)
最近エキゾチックアニマルを好んで飼う人が増えていますが、飼育されている野生動物や野外の野生動物の健康ついて、先生はきびしい見方をされているそうです。
「エキゾチックアニマルを一般の人が飼うことには、私はハッキリと反対です。珍しい動物を見たければ動物園や博物館などの公的な施設があるわけですからそこに行けばいいし、野生の状態にいるかれらを見たければ現地に行けばいい。個人の趣味や快楽のためにむやみに希少な動物を輸入して飼う----その中にはおそらく乱獲されたり、密漁や乱獲された動物も含まれるでしょう。それは許されることではありません。ジャングルの奥地にいた動物をマンションの一室で飼えるわけがない。絶対にやってはいけないことだと思います。開業の獣医師も、エキゾチックペットのオーナーを教育・指導していく社会的な責任がありますし、日本はもっと輸入規制をきびしくして、個人の飼育を規制していくべきですね」(福井先生)
家に帰っても、何かあればすぐに飛んできて対処しなければならない動物園の獣医さん。自分の時間がなくなってしまうのではと心配になってしまいますが…
「正直、毎日仕事をやることが楽しいと思って生きている人間なので、休みのときもいつも仕事のことを考えています。自分がいないと動物が救えないなとか…(笑)。その意味ではこれは自分のライフワークのひとつなので、別に苦にはならないですね」(福井先生)
みずからを24時間獣医という福井先生は、かつて自分が大自然やそこに住む野生動物と出会って覚えた感動を、次の世代の子どもたちに伝えていけるような立場になりたいとこの仕事を選ばれたとか。旭山動物園で見た動物たちのイキイキした様子を支えているのは、こうした先生たちの志の高さなんだと実感しました。
■旭山動物園公式サイト
http://www5.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/
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