このことを深刻に受け止めた伊藤さん一家は、友人から紹介されたトレーナーさんとともに彼のトラウマをゆっくり時間をかけて解きほぐしていくことにしました。その当時、お散歩で見かけるゲン太くんの表情はいつも挑戦的な鋭い感じだったことをわたしも鮮明に覚えています。
「とにかくショックで、これ以上人間に危害を加えるようなら一緒に暮らすことさえむずかしくなってしまうと。だけどその時はすでにかけがえのない家族の一員でしたから、手放すなんてことは考えられなかったし…。どうすればいいのか、必死で模索しましたね」(伊藤さん)
伊藤さん一家の努力のかいあって、7歳になる今のゲン太くんからは問題行動を抱えていた子の面影はまったく感じられなくなりました。人間にはもちろん、他の犬たちにもフレンドリーで穏やかな犬に“変身”したのです。向こう気の強いうちのハービーが「オレ様の方が強いんだぞ!」と近づいてもわれ関せずといった大人の行動を見せますし、アッシュが「おはよう!」と挨拶すれば短いシッポを小刻みに振ってフレンドリーに応えてくれます。
人間の伴侶動物といわれる犬は、人間からどんなにひどい扱いを受けた経験を持つ子でも、深い愛情をもってその子と向き合い根気よく接していれば、また人間に対して「信じてみよう!」という前向きな気持ちになってくれるものなんだ、ということを伊藤さんとゲン太くんに教えてもらったように思います。
最後に少しブリタニーについてお話しておきましょう。
ブリタニー・スパニエルは、フランスの北部、ブルターニュ地方を原産地とする鳥猟犬(ガンドッグ)で、名前は地名に由来しています。その勇姿は17世紀頃からフランスやオランダでは数多くの古典絵画にも登場しておりなかなかポピュラーな犬種だったようです。
体高は47~50cm、体重13~15kgとサイズ的には中型犬の類に属しますが、スパニエル
の中ではもっとも四肢が長く、ポインティング・ドッグとしては世界最小だそうです。鳥猟犬としての能力はポインターやイングリッシュ・セターと比較しても勝るとも劣らない反面、穏やかでやさしく、人なつこく飼いやすい犬種でもあります。コートはビロードのように厚くなめらかでややウェーブがかかっています。毛色は白&オレンジと白×リバー(マロン)が多いですが、白黒タンのトリコロールもあるそうです。
ボルボのワゴンスペースは彼の指定席 |
写真のゲン太くんは、オスのブリタニーとしては小さめではないでしょうか。伊藤さんによると、お手入れは定期的なブラッシングぐらいで比較的楽だそうですが、やはり鳥猟犬ですから普段から十分な運動量が必要とか。伊藤さんは週末に別荘に行ったときは思いっきり野山を走らせていますが、その動きは普段近所を散歩している姿からは想像できないほどエネルギッシュで敏捷で美しい動きをするということでした。
子どもが大好きでよく遊び、家庭犬としても番犬としても欧州・北米では人気が高いブリタニー・スパニエル。日本ではまだまだめずらしい犬種ですが、これからだんだん人気がでてくることでしょう。