もし債務が時効にかかっていると思ったら、「時効にかかっているから支払うつもりはない」とはっきり言うことが大切です |
飲み代を支払わないといけないのは誰?
では、ABCDそれぞれについて、飲み代を支払う義務があるのかどうか検討してみましょう。まず、一部を入金し、残りの支払いも約束したA氏です。時効にかかっているのだから、A氏は、支払った2万円を取り戻せるのでしょうか?あるいは、支払った2万円は取り戻せなくても、まだ支払っていない3万円は支払いを拒絶できるのでしょうか?実は、いずれも違います。正解は、「2万円は取り戻せないし、残りの3万円も支払わなければならない」です。というのも、一部入金をしたり、残金の支払いを約束すると、支払い義務があることを認めたことになり、それ以降、時効を主張することはできなくなるのです。これは、A氏が時効期間が過ぎていることを知っていようが、知っていまいが同じです。お人好しのA氏は損をするわけです。
次に、「ちょっと待ってくれ」と言ったB氏です。A氏とは違い、まだ支払っていません。しかし、B氏は、「来月末までには払う」と言って、残金の支払いを約束しています。そうすると、支払い義務があることを認めているわけですから、A氏と同じようにB氏も時効を主張することはできません。ただ、A氏は念書にサインまでしており言い逃れはできませんが、B氏は口頭で言っただけですから、後になって「おれはそんなこと言ってない」とウソをつくかもしれません。ですから、ママのY子さんとしては、B氏からきちんと念書をとっておいたほうがいいでしょうね。
では、「飲み代なんか踏み倒してやる!」と息巻いたC氏や無視を決め込んだD氏はどうでしょうか。「踏み倒すとか、無視するなんてとんでもない!そういう不誠実な男には制裁を与えないといけないから、支払い義務はある!」と言いたいところですが、残念ながら違います。C氏は、はっきりと支払う意思がないと表明していますし、D氏も支払う意思を表明していません。ですから、原則どおり、飲み代は時効にかかります。
ちょっとで良いから払ってよ、には要注意!
どうでしょうか。一番誠実なA氏が損をして、不誠実な態度のC氏やD氏が得をする結果となりました。実はこの理屈、飲み代のツケだけではなく、請求権全般にあてはまるものです。貸金業者からの借金は5年で時効にかかりますが、借り手は時効にかかったと知らずに、一部を弁済してしまうことがあります。一部でも弁済したら、上記に述べた理屈で、もう時効は主張できません。貸金業者は、その理屈をよく心得ていますから、時効にかかっている貸金を借り手に請求するときは、こんなことを言います。
「1000円でも2000円でも良いので、とりあえずちょっとでも払ってくださいよ」
ちょっとでも支払ったら、時効は主張できなくなります。正直者がバカを見ないようくれぐれもご注意を。