と、思ったが、K美は不安になった。それまでもY伸と会話していると、初めて話したのにたいして驚かなかったり、話してもいない予定を知っていたりということがあった<のだ。
R子とアパートに帰って確かめてみることにした。
室内捜索
二人で室内を見回した。「テーブルの下とか、照明器具も見てみよう」
考えられる目に付くところを調べてみたが、何もよけいなものは見あたらない。
「やっぱ、盗聴器なんて考えすぎだよ」
「でもY伸くんてあやしいじゃん」
「そんな…」
とはっきり否定できないK美だった。
「何かさ、彼からもらったものとかないの?」
「あっ…」
K美がハッとして視線をとめた先には大きなクマのぬいぐるみがあった。R子が、
「これ?」
と持ち上げてみた。チェックのベストを着たクマだが見た目ではわからない。
「でも、この子があやしいよ。開けてみようよ」
K美はR子に無言でうなづいた。
初めてぬいぐるみの服を脱がしてみると、脇の縫い目が一部分ない。中に指を入れた。しばらく探っていると
「あっ、何かある」
R子が声を上げた。
「ほら!」
取り出したものは黒い小さな物体だった。
「これが盗聴器なのかなあ」
「他に考えられる? 決まってるじゃん。やだなー、Y伸くんってやっぱコワ~イ」
小さな黒いそれを手のひらにのせたまま、K美は考えていた。ひとり暮らしを始めてまだ数週間。テレビを見たり、電話をかけているときにいつもぬいぐるみを抱いていた。寝るときも隣りに置いていた。
「ひとり暮らしを始めたお祝いに」
とY伸からもらったそれを疑いもなくそばにおいていた。そういえばY伸が遊びに来たときには、
「おれの分身だから」
と言って、よく彼もクマをもてあそんでいた。二日ほど前に来たときも、K美が食事を用意している間、いじっていたようだった。