◆ 顧客との心理的距離を縮めるには…
では、顧客との有効な関係を構築するにはどうしたらよいのだろうか。
どちらかといえば、“囲う”よりも、商品やサービスの魅力でもって、顧客の方から近寄らせることが重要だ。こちらから近寄ろうとすれば、どんどん逃げられる。
逆に、顧客から寄ってきてもらうことで、企業と顧客との距離を縮めるという作戦(「ネットで新規顧客開拓3つの秘訣」にその成功事例を紹介)である。
人間関係でも、多くの人を寄せ付けるには、本人の魅力がなければ無理だ。一口に魅力といってもさまざまである。外見、性格、雰囲気、知能、…個々の魅力を挙げたら数え切れない。大抵は、これら魅力のひとつかふたつを磨けば、一般社会では興味を持ってもらえるだろう。
ところが、栄枯盛衰の激しいネット世界では、これがそのまま当てはまらないケースが多い。どちらかといえば、芸能界での浮き沈みの構図に似ているかもしれない。ターゲットは商圏に関係なく全国規模。「他人の不幸は蜜の味」で仕事を勝ち取ってゆかなければならない。一時売れたとしても、数ヶ月先はわからない不安定な世界。
そのような激戦と同じなのだから、すべての企業がそんなことを簡単にできるわけではない。実際のところ、商品やサービスにおいて他社とは異なる確固たる力を持ち、競争優位性を維持し続け、顧客の興味を失わせないことは並大抵ではないからだ。
では「囲い込み」は、eCRMやメールマーケティングを提案する企業、ショッピングモールがクライアントを納得させるための“まやかし”の言葉だったのだろうか。経緯から見てみよう。
巷に情報が溢れる前から、確実に顧客とのよい関係を構築、売上を拡大、成功している企業が存在した。するとその手法は、さまざまな形で効果的なwebマーケティングや成功ノウハウとして多くのメディアで紹介され(意外と現場の実態を知っていない)、その世界の有識者と思われる人々によって語られることになる。
すると習い性で、多くの企業が同じようなことを一斉に始める。こうなるとメールマーケティングやネット上での販促手法は、次第にその効果が薄められ、ユーザーは不要な情報にうんざりし、不信感さえ抱くようになる。
機敏な企業であれば、それら販促手法が広まった時点で、そのやり方はすでに通じなくなったことを察知していて、将来のために別の戦略、収益確保のシナリオを頭に描く。
他社の理論がそのまま自社に適用できると考えてはいけない。成功しているところと自社との共通点、相違点はどこか、そして今、自社は何を(どうなることを)目指しているのか。これらをひとつひとつ洗い出してゆく。
究極的には「一社一理論」なのである。