
いくつまで性を楽しむことができるのか。この問いに多くの医師などは「いくつになっても性欲はある」と話すものだが、性欲があることと、実際に性的な行為をすること、そして心身ともに満足することはおそらく全部違うのではないだろうか。
女性の性欲には否定的?
「60代の男性がセックスしたいと思っていても、みんなそういうものだよねと納得するかもしれないけど、60代の女性がしたいと思ったらみんな内心『キモい』と感じるような気がするんです。私の被害妄想ですかね」
そういうのはカナコさん(63歳)だ。結婚して33年、二人の子どもたちは独立し、この数年は同い年の夫と二人で暮らしている。
「子どもたちに冷やかされるほど仲がよかったんです。50代になっても手をつないで買い物に行ったりしていました。週に1度はセックスもしていました。でも60代に入ってから、夫が私に触れなくなったんです。私から手をつないだり、前のように一緒にお風呂に入ろうと誘っても生返事ばかり。もしかしたら浮気でもしているのではと疑っていました」
カナコさんは夫に拒否されていると感じ、口数が減っていった。共働きなのだが、夫と食事をするのも気後れがして平日はほとんど夕食を別にするほどだった。
あるとき夫から「何かあったの?」と聞かれた。
「そう聞きたいのはこっちよと。他に好きな人ができたの? と聞いたら、夫はきょとんとしていました。触れなくなったことを言うと、『あ、それか。ごめん』と。夫によると、なぜか急激に性欲が低下し、それと同時にスキンシップも嫌になってしまったのだそう。理由は分からないというんです。きみのことが嫌になったわけではないからって」
夫がベッドに潜り込んできて
夫はその後、カナコさんにも勧められて泌尿器科を受診し、男性の更年期症状だったことが分かった。医師に処方された漢方薬をとり、カナコさんと一緒にジムにも通うようになった。半年ほどたつと、夫は少しずつ元気を取り戻していった。
「あるとき夫が私のベッドに潜り込んできました。夫婦関係は復活、夫はまたスキンシップを好むようになった。あとから聞いたら、夫が心身ともに不調なとき、私がやる気満々になっていることに妙な圧を感じたそうです。今では笑い話になっていますが、夫は『自分は男として情けない。妻の性欲が怖い』と思っていたそう」
そう言われても、性欲は本能的に備わっているもの。60代の性欲となると男女ともに個人差が激しいが、夫婦間で相手の性欲に対して理解と共感を続けるのは難しいのかもしれない。
「今後はもっとお互いに性的なことも話し合っていこうと夫と確認しました。年をとると、性的なこと以外でも、おそらく今まで通りというわけにはいかない。相手はこういうものだと思い込まないようにしないといけないと思っています」
性行為をしたいのか、性的行為で満足するのか。細かなところまで話しながら生きていきたいとカナコさんは微笑んだ。
妻はまったく応じてくれない
一方、タカシさん(66歳)は、年の離れた妻から「60代にもなって性欲があるなんて気持ち悪い」と言われてしまったとしょげている。一回り年下の妻は、ある60代俳優のファンなのだそうだ。
「言っていることが矛盾していると思うと言ったら、『あなたに性欲があるのは気持ち悪いけど、彼ならいいってこと』とさらに追い打ちをかけられました。30年近く連れ添ってきたのに冷たいですよね」
タカシさんは結婚当初から妻の意向を大事にしてきた。妻が50歳前後のころ、更年期症状に苦しんでいるのを見ていたから、性的なことを強要したこともない。そのころからほとんど身体的接触はなくなった。
「でも僕は、本当ならまだしたいんですよ。若いころのような強烈な性欲はないけど、妻と触れ合いたい、抱き合って眠りたい、セックスもしたい。そう思っています。だから折を見てはすり寄っていくんですが、『その気になれない』と言われてしょげるという繰り返し。最近は室温問題もあって、寝室は別にしているので、僕はせいぜいエロ動画を観て自分を慰めているんですけどね」
60代の性欲の何がいけないのか
今まで仲良くやってきたのだから、妻との関係を壊す気はない。他の場所で性欲を解消しようとも思っていない。ただ、時々無性に寂しくなると彼は言う。
「いい年してと自分でも思っていたけど、最近、思うんですよ。60代で性欲があって何がいけないんだと。睡眠欲、食欲、性欲は三大本能ですからね。いくつになっても欲求が衰えないのは元気な証拠なのではないかと」
妻で満たされないなら、一人で満たせばいい。そう開き直ったタカシさんは、少し気持ちが楽になったという。
「それでも時々、『ねえねえ』と妻の顔色はうかがっています。相変わらず拒絶されているけど、それ以外では仲がいいから、妻との関係という意味ではそれで満足するしかないのかなとも思っています」
断られても、これからもアプローチは続けますとタカシさんは笑った。







