
人は「倫理的にしてはいけないこと」と分かっていても、そこから抜けられないことがある。おそらく抜本的な解決ができていないからだろう。ただ、ときにはそうやって「自分を解放して甘やかす」ことでしかしのぐことができない、つらい時期が人生にはあるのかもしれない。
職場の先輩に心惹かれてしまい
「30歳で結婚しましたが、35歳のとき仕事と家庭の両立が難しくなり、義両親の優しさに甘えて夫の実家近くに越したんです。でもそれが不幸の始まりでした」
タカコさん(48歳)はそう言って過去を振り返る。義母は、引っ越す前は「二人の子くらい任せておいてよ」と自信をもっていたが、実際には半年もたつと保育園の送り迎えを面倒くさがるようになった。タカコさんは仕事を持ち帰り、子どもたちを寝かしつけてから机に向かった。
「夫もよく飲んで帰ってきましたね。せめて子どものことにはもう少し関わってほしいと言っても、分かったと言いながら飲んだくれてくる。義母は気の向いたときだけ子どもたちを猫かわいがりして、機嫌が悪いと玄関の鍵を閉めて子どもを入れてくれない。近所の人が預かってくれていたこともありますが、結局、全部私が悪いことになってしまう。どこにも私の味方はいない。そうやって追い込まれていきました」
職場でため息をついていたとき、話しかけてくれたのが先輩の男性だった。一緒にランチをしたり、時間が許せば帰りに落ち合ってコーヒーを1杯ともにしたりした。それだけで救われるような気がした。
「だけどいつの間にか、彼に心惹かれてしまったんです。職場で彼の顔を見るのがつらくなって……。普通に話すこともできなくなった。一体どうしたんだと彼に言われて、正直に言いました。あなたのことが好き過ぎてつらい、と」
自らの意志の力を信じて
彼にも家庭があった。だが気持ちは同じだと言われた。そしてタカコさんは、一夜をともにすること、それきり同僚に戻ることを提案した。そんなことができるのかと彼に問われ、「そうしなければお互いに爆発してしまう」と説得した。
「二人とも家族に嘘をついて落ち合い、24時間一緒にいました。素晴らしい時間だった。本当はまた二人だけの時間がほしかったけど、お互い心を鬼にして同僚に戻りました。意志の力で、最低限のところで自分をコントロールできた」
本当はそんなことをしない方がよかったのかもしれないが、あの時点ではああするしかなかったと彼女はうつむいた。
その後、タカコさんはますますパワフルに仕事と子育てをこなしていった。夫にも義母にも臆することなく「手伝って」と言えるようにもなった。先輩とのことで何かが吹っ切れたのだという。その先輩とは今もたまにお茶をしながら話をするような、いい関係が続いている。
夫の不倫が発覚
「生きているとどうにもならないつらいことってたくさんありますよね」
ため息をつきつつそう言う、ナギサさん(43歳)だ。32歳で結婚したものの、なかなか子どもに恵まれず不妊治療に取り組んだ。36歳のときにようやく妊娠するも流産。夫は「きみの体が大事だから、もう子どもはあきらめよう」と言った。だがその後、自然に妊娠し、38歳で双子を出産した。
「出産したとたんに父が病に倒れて半身まひになりまして。看病していた母も倒れて、一人っ子の私は自分の体もままならないのに、育児と両親の介護でおかしくなりそうでした」
自宅はナギサさんの実家近くだったため、「知らん顔もできず」、自分の体がつらくても子連れで実家を訪れるしかなかった。その後、ようやく父は施設へ入ることになり、母も入院生活を経て自宅に戻ってきた。
「最初は協力的だった夫も、だんだん帰宅が遅くなったり家を空けたりするようになったんです。夫にしてみれば、帰ってきても私は実家にいることが多いし、自分の家庭を築いている実感がなかったのかもしれません」
子どもたちが1歳を迎えるころ、夫の不倫が発覚した。スマホの画面に着信したばかりのメッセージが見えてしまったのだ。今思うと、もしかしたら夫は不倫に気づいてほしかったのかもしれない。
「ただ、そのときは怒りが先でしたね。私だけがこんな大変な思いをしているのに、あなたは他の女と遊んでるわけ? 本気ならさっさと離婚してよと叫んでしまった。夫は、『反省してる。とにかくやり直そう』と。1カ月、毎日のように土下座していました。そのうち私も、夫をいじめているような気分になって」
救いがほしかった私
両親の介護の負担が少し減ったのもあり、もう一度、夫とやり直そうと決めた。だが1年頑張ってみても夫に“裏切られた”傷が癒えない。そんなとき、街なかでバッタリ元カレに出会ってしまう。
「その日は夫が子どもを見ていてくれるというので、久々に繁華街のおしゃれな美容院に出かけたんです。帰りに声をかけられて、見たら元カレで。なんだかあまりの懐かしさにうるうるきちゃいました」
彼に誘われるままにホテルに行ってしまったのだが、どう考えても「あのときの心境は自分でもよく分からない。ただただ、誰かに心の穴を埋めてほしかったんだと思います。ちょうどいい人が目の前にいたという感じ」だった。
だが、彼女は救われなかった。罪悪感にさいなまれたし、あれだけ頭にきたのに夫と同じことをしてしまった自分が情けなかった。
「なのに引きずられるようにずるずると元カレと会ってしまいました。結局、それが夫にバレてまた揉めて。子どもたちのために今も結婚生活は続けていますが、お互いにどこかギスギスしています。あのとき元カレとヨリを戻さなければよかった、せめて一度だけにしておけばよかったと今でも思います。発端は夫が悪いとはいえ、私も自分自身の弱さを痛感してしまった。あのときどんなにつらくてもきちんと夫と向き合うべきでした」
今からでも遅くはないのではないだろうか。







