
住宅の価格が高騰し、特に東京および近郊では、子育て世代には手が届かないものになっている。そのため、都内に家のある親世帯と一緒に住む選択肢も現実的である。
娘一家と二世帯住宅に
カオルさん(68歳)が、夫と建てた家を二世帯住宅にリフォームし、娘一家を招き入れたのは1年前だ。
「2歳年上の夫も楽しみにしていたんですが、一緒に住む前に急病で亡くなってしまったんです。リフォームがほぼ終わっていたころのことでした。私は何もやる気がなくなってぼうーっと過ごしていました」
そんなカオルさんを親身になって慰めてくれたのが、娘のサヤさんだった。もうじき一緒に住んでお母さんが寂しくないようにするからと、ずっと励ましてくれた。
途中でいったん止めていたリフォーム工事も再開、カオルさんも少しずつ元気を取り戻していった。
本当は断りたかったが
「そもそも二世帯住宅にして住まないかと言いだしたのは、娘の方なんです。お父さんとお母さんが心配だからと言っていたけど、生活が苦しかったんだと思う。私は断りたかったんですよ。夫と二人でのんびり暮らしたいと思っていたから。でも夫は、娘を呼んで二世帯住宅にしたいと言い出した真意を聞いた。夫の予想通りでした。まだ幼い二人の子どもを抱えながら、家を買うのは無理だし、今後も購入できるとは思えない。実家は空いている。娘は一人っ子。いずれ親の面倒もみることを考えれば、今から一緒に住んでもいいんじゃないかと。どうも娘の夫からそう吹き込まれているような感じでした」
夫は、一人娘の心配を少しでも取り除いてやりたいとカオルさんに言った。どこまでも娘に優しい父親だったとカオルさんは懐かしそうにつぶやいた。
「リフォーム費用はうちが7割、娘のところが3割出して。2階を娘一家が使うことになりました。2階にはキッチンとお風呂も作って。下は駐車場があるからもともと狭いし、私たちもだんだん階段の上り下りがつらくなるから1階を使おうと」
玄関は一緒だが、玄関から階段は直結だから娘の夫が遅く帰っても、それほど気を使う必要はない。
互いに干渉しあわず、でも困ったときは助け合おうと決めたのだった。
娘の夫は私がいないようにふるまう
「今でも基本的には別々の生活です。私もパートで働いているし、娘もパートに出ている。6歳と4歳の孫たちは保育園。送り迎えは基本的に娘がやっていますね。どうしても行けないときは私が行くこともありますが」
食事も別だ。カオルさんが友達と旅行に行くときは前もって話すが、どこへ行くとか旅の予定とかを話したことはない。もちろん聞かれれば答えるが、カオルさんを交えての団らんはほとんどないから話す機会もないのだという。
「週に1度くらいは一緒にご飯を食べようと言ってくれるかなと思ったけど、ほとんど誘いはないですね。最初は期待していたけど、娘の夫にすれば私は他人だし、リフォーム代を少し出したとはいえ、妻の親に見張られているみたいで落ち着かないでしょうし。友達に話したら、初めての一人暮らしだと思えばいいと言われて、それもそうだと思ったから、娘一家に執着するのはやめました。私は一人暮らしを楽しめばいいと気持ちを切り替えたんです」
それでも娘は夜になると降りてきて、時間があれば世間話の1つもすることがある。だが娘の夫とは1週間、まったく顔を合わせないことも珍しくない。
「私を避けているのかもしれません。娘が間に入ってつらい思いをしているのかなとも感じますが、あまり根掘り葉掘り聞けないし」
夫の一周忌の法要で
つい先日、夫の一周忌の法要があった。カオルさんはほとんど一人で決め、娘たちや夫の親類たちに知らせた。
「娘は当日、ずっと私に付き添ってくれましたが、娘の夫は私には一言もなく、あげく法要後の食事会にも出席しなかったんですよ。どうしても仕事があって休日出勤しなくてはいけないからと娘が言っていましたが、それは本来、彼が直接私に言うべきだと思うんですよね。『なんか私、幽霊扱いされてない? ここにいるのに彼には見えないの?』と娘に怒ってしまいました。すぐに、ごめん、あなたに言うべきじゃなかったと謝りましたが、娘は涙ぐんで『こっちこそごめん』って」
それからも生活は変わっていない。カオルさんはますます娘一家と心理的に距離を置くように心がけているのだが、「もともとここは私たち夫婦の家なのに」という思いは抜けない。
「なんとかしなければストレスまみれになりそうだけど、私が家を出ていくのもおかしな話ですからね」
完全に気持ちをシャットアウトするのは難しいが、それが原因で体調を崩さないよう気をつけなければいけないと友人に言われたという。







