
女性の年金受給額は、男性より平均で約6万円少ない……。この差は、現役時代の賃金格差や就業期間の違いが、そのまま老後まで影響していることを示しています。長寿化が進み、「おひとりさま」の高齢女性が増える今、自分自身の年金で生活できるかは、多くの女性にとって避けて通れない課題です。
女性が直面する老後のお金や働き方の課題について解説する『女性たちの定年後ーお金・仕事・暮らしのリアル』(坊美生子著)より一部抜粋し、日本の年金制度における男女間年金格差の実態や、その背景にある現役時代の働き方、そして女性が将来を見据えて考えておきたいポイントを紹介します。
厚生年金の男女差は「月6万円」ほど
公的年金について、男女差にも注目して見ていきます。私たち個人が「いつまで働くか」を判断する上でも、公的年金をいつから、どれぐらいもらえるかは、重要な要素でしょう。
●「いつから」もらえるか
まず「いつから」もらえるかです。 国民年金(老齢基礎年金)も厚生年金(老齢厚生年金)も原則、65歳から支給開始されます。
●もらえる金額(国民年金の場合)
次に「どれぐらいもらえるか」です。 国民年金に加入していた場合、65歳から支給開始される老齢基礎年金は、月額6.9万円(2025年度)の「定額制」です。ただし、保険料の未納期間があれば減額されます。厚生労働省によると、実際の老齢基礎年金の平均月額は5.8万円(2023年度末)に過ぎません。ちなみに、厚生労働省が発表している年金額は、税・社会保険料を差し引く前の金額なので、手取りはこれよりも低くなります。
●もらえる金額(厚生年金の場合)
一方、厚生年金に加入していた場合、65歳から支給開始される老齢厚生年金の金額は、基本的に、報酬と保険料を支払った期間によって金額が変わる「変動制」です。保険料は、報酬によって、現在32等級に分けられています。ですから基本的には、現役時代に報酬が高く、長く保険料を納めた人ほど、老後に受給できる老齢厚生年金も高くなります。現在の老齢厚生年金の平均月額は、老齢基礎年金を含めて14.7万円(同)です。
ただし、これは男女を合わせた平均額であり、女性は注意が必要です。筆者がこれまでにもさまざまなメディアを通じて指摘してきたことですが、老齢厚生年金の受給額には、大きな男女差があるからです。
前述したように、厚生年金は、現役時代の報酬と保険料を納めた期間によって、老後の年金額が決まります。女性のほうが男性に比べて現役時代に低賃金であり、結婚・出産などで雇用が途切れている人が多く、厚生年金保険料を支払った期間も短いため、老後、受給できる年金額も大幅に低いのです。
図表は、2023年度の老齢厚生年金受給者の受給月額(老齢基礎年金を含む)の分布を男女別に見たものです。男性は17~19万円にピークがありますが、女性は9~10万円がピークとなっています。平均額を比べても、男性は16.7万円に対して、女性は10.7万円であり、6万円ほどの差があります。

公的年金は夫婦であることが前提だった
公的年金は、老後の暮らしを支える家計の柱ですが、なぜこのように大きな男女差があるのに、これまであまり社会課題として取り上げられてこなかったのでしょうか。それは、従来の年金政策は、年金受給者が「世帯」、つまり夫婦であることを前提として設計されてきたからです。
たとえ妻の年金額が低くても、夫が安定した年金を受け取っていれば、世帯として生活できるので、問題ないと考えられてきたのです。厚生労働省が毎年、年初に発表している次年度の年金額も、受給者のモデルを「40年間、平均的収入で働き続けたサラリーマンの夫と専業主婦の妻」という夫婦に単純化し、その受給額を公表してきました。
単身世帯の増加や共働き世帯の増加など、社会情勢の変化を受けて、多様なライフコースに応じた個人単位の受給額も合わせて公表するようになったのは、2025年からです。
90歳女性の9割がシングルの時代
前述の通り、今は「長寿・おひとりさま時代」です。 未婚率の上昇などによって、シングルが増えています。女性の場合、2人に1人は90歳まで長生きしており、90歳女性の約9割はシングルです。さらに言えば、65歳以上の「高齢者」の6割を女性が占めています。日本を、高齢期も安心して暮らしていける社会にするためには、女性個人の年金水準に、もっと注意を払うべきだと思います。
男女間賃金格差については近年、社会課題として認識されるようになりましたが、男女間年金格差については、まだ十分に認識されていないようです。しかしながら、働けなくなったときの所得保障が、公的年金の役割であることを考えれば、男女間年金格差は、男女間賃金格差と同様に深刻な問題ではないでしょうか。
少なくとも女性個人は、将来の自身の年金見込み額を念頭において、ライフデザインを描いていくべきです。
著者:坊 美生子(ニッセイ基礎研究所 准主任研究員)
1978年、福井県生まれ。ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任。神戸大学大学院国際協力研究科修了。2002年、読売新聞大阪本社入社。記者として労働問題や地方行政などを担当。2017年より現職。主な研究分野は、中高年女性のライフデザイン、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー(老年学・高齢社会研究)。特に、日本のジェンダーギャップ解消と女性の自立を目的として、中高年女性の雇用関連の調査研究に力を入れている。






