
離婚後の生活設計において、「年金分割があるから老後はなんとかなる」と考えている人は少なくありません。しかし、そこには大きな盲点があります。実は、夫と離別した女性の平均年金受給額は「月約9万円」にとどまり、約6割が月10万円未満。死別した場合とは異なり、遺族年金のような公的保障もないため、事前のマネープランなしでは老後に深刻なリスクを抱えることになります。
中高年女性のリアルな経済事情を描いた『女性たちの定年後ーお金・仕事・暮らしのリアル』(坊美生子著)でも、「年金分割の利用実態」と女性が直面する老後の課題について警鐘を鳴らしています。
今回は本書から、意外と知られていない「年金分割制度」の仕組みと限界、そして離別女性の老後貧困リスクを回避するために今から実践したい防衛策を解説します。
夫と離別した場合の社会保障は手薄
配偶関係と年金の関係について、夫と離別した場合について見ていきましょう。結論を先に言うと、離別した場合は、扶助の仕組みは手薄です。
夫と離別した場合、たとえ婚姻期間中に夫に扶養されていて、離別後、すぐに経済的自立が困難だったとしても、死別した場合の遺族年金のように、現役時代に給付される年金はありません。あるのは、元夫の婚姻期間中の年金納付記録を分割して、老後に本人の老齢年金に上乗せする年金分割制度のみです。
条件は、離婚した夫(または妻)が厚生年金に加入していた場合で、当事者同士の合意が必要です。合意がまとまらない場合は、一方が請求すれば、裁判所が按分割合を定めることができます。
もし妻(または夫)が第3号被保険者だった場合は、本人が請求すれば、相手の合意がなくても、原則、年金記録を2分の1ずつに分割できます(3号分割)。現在の請求期限は離婚から2年間ですが、2025年の法改正により、今後は5年に延長されます。
離婚後に年金分割した人は約2割
厚生労働省によると、2023年度の離婚件数は約18万件ですが、年金分割をしたのは約3万件。離婚件数に比べれば約2割に過ぎず、利用が定着しているとは言えません。実際に納付記録の分割を受けた側は、老齢年金の月額が平均約3.3万円上乗せされています。3号分割に限ると、平均8000円の上乗せに過ぎません。
現在の中高年世代では、女性は結婚・出産後にいったん退職するライフコースが主流でしたが、中年以降に離婚した場合は、ブランクを経て正規雇用に就くことはハードルが高かったため、経済的に厳しい状況に立たされた女性も多いでしょう。
死別の場合は、高齢期に入る前から遺族年金という所得保障制度が確立されている一方で、離別の場合は、同じく夫に扶養されていた妻の立場でも、そのような仕組みはありません。
もっとも切実なのは、妻がシングルマザーになるケースです。厚生労働省によると、シングルマザーの年間就労収入は、約7割が300万円以下です。年間400万円以上稼いでいるシングルマザーは約15%に過ぎません。子が小さいと育児に手がかかり、女性自身がもっと働きたいと思っていても、働くことが難しいという育児制約も生じます。シングルマザーの貧困は、子の貧困につながります。
女性が直面する「老後貧困」リスク
このような離別女性の状況は、老後の年金額にそのまま反映されています。
女性の年金受給月額について、改めて配偶関係別に整理すると、平均月額が高い順に
1. 死別(12.7万円)
2. 未婚(11.7万円)
3. 離別(9万円)
4. 有配偶(8.2万円)
です。有配偶女性は、世帯としては配偶者の年金があるので比較対象から外すと、やはりもっとも厳しいのが離別女性です。死別女性がもっとも高いのは、遺族年金が押し上げているためと考えられます。
分布を見ると、月10万円未満の割合が、離別では約6割に上り、死別や未婚(いずれも約4割)よりも高いです。月10万円という水準は、前にも述べた通り、ひとり暮らしでほかに収入がなければ「相対的貧困」の状態に相当します。
特にシングルマザーの場合は、現役世代に、限られた収入を子どもの教育費などに優先的に使い、自身の老後の備えを後回しにしてきた女性も多いかと思います。資産形成できないまま高齢になり、働けなくなると、老後、貧困リスクに直面してしまいます。
養育費については、2026年度以降、離婚時に取り決めがされていなくても請求できる、子ども1人につき月額2万円の「法定養育費」が導入される見込みですが、離別女性に対する支援の在り方については、もっと検討する余地があるように思います。
同時に、離別した女性自身も、現在の生活だけではなく、自身の老後のことも視野に入れて、仕事でのステップアップや資産形成に取り組むことが大事だと言えそうです。
著者:坊 美生子(ニッセイ基礎研究所 准主任研究員)
1978年、福井県生まれ。ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任。神戸大学大学院国際協力研究科修了。2002年、読売新聞大阪本社入社。記者として労働問題や地方行政などを担当。2017年より現職。主な研究分野は、中高年女性のライフデザイン、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー(老年学・高齢社会研究)。特に、日本のジェンダーギャップ解消と女性の自立を目的として、中高年女性の雇用関連の調査研究に力を入れている。






