
2026年6月11日に開幕したFIFAワールドカップ2026(W杯)は、世界中から熱い注目を集めています。なかでも、アルゼンチン代表で数々の記録を塗り替えてきたリオネル・メッシ選手(38歳)と、ポルトガルの英雄と称されるクリスティアーノ・ロナウド選手(41歳)をともに見られる最後のワールドカップとしても注目されています。
そしてサッカーを夢中になって観ていると、ふと「この選手の全盛期は一体いつまで続くのだろう」と考えてしまうものです。かつて、イングランドの名門アーセナルを率いたアーセン・ベンゲル監督が、30歳以上の選手には単年契約しか提示しないという厳格なポリシーを持っていたのは有名な話です。
一方、日本では三浦知良選手(59歳)がJリーグ・福島ユナイテッドFC所属、長友佑都選手(39歳)がJリーグ・FC東京所属(ともに2026年6月現在)の現役選手として活躍しています。とりわけ長友佑都選手は2026年北中米ワールドカップの日本代表メンバーにも選出されており、アジア人として初の「5大会連続出場」を達成しました。30代後半になっても世界トップクラスで輝き続けるベテラン選手が数多くいるのも事実です。それはなぜなのでしょうか。
今回は、最新のスポーツ科学・医学の論文データをもとに、サッカー選手のピークが何歳にあるのかを医学的な観点から解説していきます。
欧州4大リーグのビッグデータからひもとくポジション別の全盛期
実は、サッカー選手の全盛期はすでに医学的に解析されています。欧州の4大トップリーグの選手たちを対象とした論文では、膨大なデータを用い、選手の個体差を排除する統計手法で年齢とパフォーマンスの相関関係を分析しています。その結果、プロサッカー選手が最高のパフォーマンスを発揮する平均的な「全盛期」は25歳から27歳の間であることが明らかになりました。ただし、ポジションによって全盛期の訪れるタイミングや長さは大きく異なります。
■フォワード(FW)のピークは25歳
得点に直結する前線の選手であるフォワードは、25歳で全盛期を迎えます。最も肉体的な負荷が高い動きを要求されるため、比較的若い段階でピークが訪れるのが特徴です。ディフェンダーを振り切る瞬発力が必要なため、30代に入るとパフォーマンスの低下が比較的急激に進む傾向があります。
■ミッドフィルダー(MF)のピークは25歳から27歳
ゲームを組み立てる中盤の選手であるミッドフィルダーは、25歳から27歳でピークを迎えます。ただし、プレースタイルや中盤での役割によってやや幅があるとされています。
■ディフェンダー(DF)のピークは27歳
守備を統括するディフェンダーは、FWやMFに比べて全盛期を迎える年齢が遅く、27歳前後になります。注目すべきは、ディフェンダーのパフォーマンス曲線はピークを過ぎた後の低下が非常に緩やかである点です。30代を過ぎても高いレベルを長く維持できるのが、ディフェンダーというポジションの大きな特徴と考えられます。
サッカーに求められる「スピード」と「スタミナ」の限界は何歳か
肉体的なパフォーマンスの限界は、医学的に何歳までなのでしょうか。2025年に国際的な研究チームが発表した最新の論文では、ブラジル1部リーグの選手たち(18歳から39歳)を対象に、ウェアラブル端末を用いた大規模な調査が行われました。
■スピードと爆発的パワーの限界
スピードと爆発的パワーについては、試合中の時速25km以上の高強度走行距離や最高速度といった指標が、32歳以上のグループで明確に低下することが確認されました。統計分析によると、純粋なスピード能力のピークは25.7歳、爆発的な能力のピークは26.0歳と算出されています。
■年齢に抗うスタミナの安定性
一方、試合中の総走行距離や持久力(スタミナ)の指標は、年齢を重ねてもほとんど低下しないことが証明されました。つまり、32歳を過ぎたベテラン選手であっても、ピッチ上を走り続けるスタミナ自体は20代の若い選手と同等に維持されているのです。持久力のデータ上のピークは24.8歳前後とされていますが、その後の低下は極めて緩やかです。
医学的な視点から見ると、サッカー選手は30代を迎えるとスタミナは維持できるものの、一瞬の爆発的なスピードやそこからの回復力が衰えていくということになります。
なぜメッシやロナウドは30代後半・40代でも一流選手であり続けられるのか
それでは、データ上は25歳から27歳がピークであり、32歳を過ぎればスピードが落ちるはずなのに、なぜリオネル・メッシ選手やクリスティアーノ・ロナウド選手のようなスーパースターは、30代後半になっても圧倒的な存在感を放ち続けられるのでしょうか。
前述の論文には、興味深い記述があります。「選手個人の能力が高いスーパースターほど、全盛期のピーク年齢が後ろにずれる傾向がある」というのです。メッシ選手やロナウド選手のような規格外の才能を持つ選手たちは、肉体的な変化に合わせて自身のプレースタイルを適応させる能力を備えています。身体能力の低下を、長年のキャリアで培ったゲームを読む目やポジショニングという経験で補完しているのです。
プレッシャー下で実力を発揮する「メンタルタフネス」は「訓練」によるもの
また、スポーツ選手のメンタルについては、「もともと強い人ばかり」ではなく「鍛えられている人が多い」ということも、これまでの研究から見えてきます。
長くトップレベルで活躍するためには、「練習量と休養のバランスをとること」「成績以外の成長や楽しさを重視するコーチング」「選手自身が気分や睡眠などをモニタリングする習慣」「スポーツ外の人間関係や将来像を大事にすること」、そして何よりも「早めにしんどさを相談できる環境づくり」が非常に重要です。そのため、スポーツ心理に詳しい専門職や場合によっては医療につなぐことも重要になります。
なお、筆者の児童精神科外来にも、スポーツで活躍していた子どもが燃え尽き症候群(バーンアウト)で受診に訪れることがあります。スポーツや競技への意欲を失い、心身ともに消耗・疲弊してしまっている状態です。具体的には、「楽しかった練習や試合が苦痛になった」「疲労感や不眠があり。集中力低下、イライラ、抑うつ気分などが続く」「もうどうでもいい、やめたいという気持ちが強くなる」といった状態がそれにあたります。勝敗や成績への強いプレッシャー、コーチ・親・スポンサーからの期待、休養不足や過剰トレーニングなどが要因とされています。
サッカーは、20代の若い才能が爆発する肉体的なスーパープレイ、そして30代の完璧なポジショニングで相手の攻撃を無力化するベテランプレイ、どちらも見ごたえたっぷりです。ピッチ上でボールを蹴る選手だけでなく、チームや試合を陰で支える全ての人々によって成り立つ、4年に1度の祭典。ぜひさまざまな視点から深く、熱く楽しんでみてはいかがでしょうか。
■参考文献
1. When do soccer players peak? A note.
2. The Role of Age in Labor Productivity How Age Matters in Professional Football
3. The Aging Curve: How Age Affects Physical Performance in Elite Football
4. JFA|公益財団法人日本サッカー協会.FIFAワールドカップ2026 招集メンバー/スタッフ - 日本代表







