
職場でのベテランと若手の分断が話題になっている。どちらも相手を憎んでいるわけではないのだが、どちらにも遠慮があって踏み込めない。特にベテラン側は「老害」と思われることを恐れているようだ。
「老害」の先輩がいたから
「今思えば、私たちの先輩の中にも、老害だと思われるような人とそうではない人とがいました。要は人間としてどうなのかという問題なんです。それは分かっているんだけど、私自身が老害だと思われているんじゃないかと気になってしまうんです」
ミナコさん(55歳)はそう言う。若く見えるし、本人も溌剌としているのだが、話が「老害」に及ぶと急に表情が暗くなる。
「会社的にも、一時期はかなり厳しく、お節介は焼かない、プライバシーには踏みこまない、パワハラ御法度みたいな講習会を頻繁にやっていたんです。私も自分が若手だったころ、先輩たちによけいなお節介を焼かれて嫌だった記憶があるので、とにかく踏みこまないことを前提にしていました」
コロナ禍で出社人数が限られていた時期もあり、また出社するようになると、なんとなく自分のチームがギクシャクしているような気がしてならなかった。
「大丈夫」の意味が分からない
「うっかり『たまにはパーッと飲みに行こうか』と言ったら、若手の数人が『いや、大丈夫です』って。この『大丈夫』が何を意味するか、ベテラン勢にはよく分からない。誘ってくれなくて大丈夫ですということなのか、気持ちは分かるけど誘わないでくださいなのか、誘わないでくれという強い気持ちなのか……。いずれにしてもそんなふうに言われると、もう誘えない。結局、ベテラン数人でいつも飲み屋でグダグダと、これでいいのかと話し合っている状態でした」
別にプライベートなことを聞きたいわけではない。ただ、今の職場の環境をどう思っているのか、仕事についてどう考えているのか、この先、どうしていきたいか。そういうことを腹を割って話したいだけだった。
「でもそれ自体が、余計なお世話と思われるだろうし。それでも全員がベテラン勢と話したくないと思っているわけではないと思って、若手たちの様子をうかがってみました」
以前だったら軽口をたたけた職場も、今はセクハラ、パワハラになるのではないかと思うと言えない。つまらないダジャレを連発していた先輩たちのことを、ミナコさんは懐かしく思いだした。彼らも何らかの方法でコミュニケーションをとりたがっていたのかもしれない、と。
「老害」だと自分で言うと自虐になる
ミナコさんは、今までずっと正直に、オープンに生きてきたつもりだった。「言葉に裏表はないし、気持ちも真っすぐと思ってやってきた」という。
「いろいろ制約が増えた今、私が『ぶっちゃけ、1つ聞きたいんだけど』というと相手がビビるようになってしまって。だから『ああ、こういうこと言うと老害になっちゃうんだよね』と自分からフォローするのが定番になってしまった。そうしたら若手の女性が、『自分から老害っていうと、かえって若手に嫌がられますよ、自虐に聞こえるから』って。もっと自然でいいと思う、ミナコさんのことは好きですからと言ってくれたけど、相手がどう思うかについては分かりませんからね。自分をどういう立ち位置でとらえたらいいか分からなくなってしまったんです」
ミナコさんが率いるチームは6人で、ベテラン1人、中堅2人、若手が2人という構成だ。若手一人と中堅の一人が、特に人と距離をとりたがるタイプ。個別にアプローチしようとしてもなかなかうまくいかない。
「彼らの気持ちに飛び込もうとしても距離をとろうとしても、どっちにしても方法が『老害だよね』と自分で思ってしまうんです。だから中堅の子にいろいろ頼んでしまうんですが、それもまた迷惑な話でしょうし」
どうして「老害」にこだわるのか
どうしてそこまで「老害」にこだわるのかというと、「自分自身で老いを感じているから」だという。分からないことを分からないと言えない、流行している物事を聞いても「それ、何?」とすんなり尋ねることができない。そして、その妙なプライドや体面こそが、「老害」に直結していると彼女自身が分かっているのだという。
「若い子たちが新しいものに興味を惹かれていて、どうしてなのか気になっても、そこを素直に聞けない。自分の気持ちは話せるけど、相手の言い分をすんなり受け止められない。そこが私の老害ならぬ実害なんです。私の年齢になると、もうあまり新鮮な驚きってないんですよね。彼らの言い分を聞いても、ああ、やっぱりねという程度のものだと分かってる」
新しい驚きやときめきがないことこそが、老害の元凶かもしれないとミナコさんは思い当たったという。そこでつい最近、彼女はヒップホップダンスを習い始めた。自分の心も体も柔らかくするための第一歩。今まで絶対にやるつもりのなかったことに飛び込んでみた。少なくとも若い社員には興味をもたれているところだという。







