子供の教育

教員はなぜ頑張りすぎてしまうのか? 1.3万人「ダウン」の裏にある思考の癖「教員脳」の正体

教員の休職者が過去最多となる今、限界を迎える真因は業務量だけでなく特有の思考癖「教員脳」にあるかもしれません。責任感の強さが自分を追い詰めるメカニズムと、休職を「人生を選び直す調整期間」に変えるためのヒントをお伝えします。

坂田 聖一郎

坂田 聖一郎

子育て・教育 ガイド

大学卒業後、芸人を目指し現在「しずる」村上純とコンビ結成するも解散。その後、教員を13年間経験。独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングを」をスローガンのもと、「ままためコーチング塾」をスタート。子育てや家事で忙しいお母さんや教員にも親しみやすい丁寧な指導が好評。

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2024年度(令和6年度)の文部科学省の調査によると、精神疾患を理由に休職した公立学校の教員は2年連続7000人を超え、依然高水準で推移していることが明らかになりました。より短い病気休暇(精神疾患による1カ月以上のもの)の取得者と合わせると1万3000人を超え、過去最多になっています。精神的な不調を理由に現場を離れる先生は、もはや例外的な存在ではありません。

休職者の増加を見るとき、多くの人は「業務が大変だから」と捉えがちです。もちろん、業務過多や人間関係などは大きな要因です。しかし、私はもう一歩踏み込んで考える必要があると思っています。

それが、教員という職業が育ててきた思考の癖――私はこれを「教員脳」と呼んでいます――が、構造的に心身を追い込みやすい状態をつくっているのです。
学校(イメージ)

心身を追い込みやすい「教員脳」とは?

教員に共通する「教員脳」とは何か

教員脳とは、教員という仕事を長く続ける中で自然と身についていく思考傾向です。

私は主に、次の3つの特徴があると考えています。

1つ目は、安定・安全・安心を強く求めること。
教員は公務員という立場上、長期的な安定を前提にキャリアを築いていきます。そのため、不安や揺らぎに対して過敏になりやすい側面があります。

2つ目は、責任を自分1人で抱え込みやすいこと。
「子どものため」「クラスのため」という思いが強い先生ほど、人に頼るよりも自分が何とかしようとしてしまいます。

3つ目は、物事を一方向から捉えがちな「一極思考」です。
学校教育の現場では、子どもたちを指導する立場として、「こうあるべき」「こうすべきだ」という価値観のもとで判断や指導を行う場面が数多くあります。そのため、教員という職業には、「~すべき」「~ねばならない」といった思考様式が、無意識のうちに深く根付いていきます。

例えば、ご自身についても、休んではいけない。弱音を吐いてはいけない。続けるべきか、辞めるべきか。このように、物事を常に二択で捉え続けることで、思考は徐々に硬直していきます。

本来であれば状況に応じて柔軟に考えられるはずの選択肢が見えなくなり、「どちらかを選ばなければならない」というプレッシャーが、心の余白を奪っていくのです。

この一極思考は、決して怠慢や弱さから生まれるものではありません。むしろ、真面目で責任感が強く、教育に誠実に向き合ってきた教員ほど、知らず知らずのうちに身につけてきた思考の癖だと言えるでしょう。

しかし、この思考が極端に働いたとき、教員自身を追い詰める要因になってしまうことがあります。

教員は「限界まで頑張れてしまう」職業

教員という仕事には、明確な「終わり」がありません。授業準備、学級経営、保護者対応、校務分掌――どれを取っても、「ここまでやれば十分」という線引きが見えにくい仕事です。

特に、なりたくて教員になった人ほど、「子どもたちのために」という思いが強く、多少の無理であれば自分の中で引き受けてしまう傾向があります。体調が優れなくても、気持ちが追いついていなくても、「ここで自分が踏ん張らなければ」「子どもに影響が出てしまう」と考え、つい自己犠牲的に頑張ってしまうのです。

その姿勢は、決して否定されるものではありません。むしろ、責任感が強く、誠実で、子ども思いな教員だからこそ持ち得る資質だと言えるでしょう。しかし一方で、そうした頑張り屋な人ほど、立ち止まることや助けを求めることが後回しになりやすいのも事実です。

「まだやれる」「自分が我慢すればいい」と無意識のうちに負荷を重ね続けた結果、ある日突然、心や体が限界を迎えてしまう――そのようなケースは決して少なくありません。限界を超えても頑張り続けられてしまうこと。それ自体が、教員という仕事の特性であり、同時に休職や燃え尽きにつながりやすい要因でもあるのです。

休職した先生の多くは、罪悪感を覚えています。しかし、別の見方もあります。休職してしまったということではなく、「休職できた」という捉え直しです。

休職できているということは、心や体がまだ「止まる力」を残していたということです。限界を超えても休めず、何も感じなくなってしまう“麻痺(まひ)状態”の方が、実は回復には時間がかかるのです。
学校(イメージ)

休職することに罪悪感を覚えなくていい

苦しさを分けるのは「環境」よりも「捉え方」

教員が休職に至る理由はさまざまです。児童・生徒への指導、職場の人間関係、事務的な業務負担――確かに外的な要因は数多く存在します。

しかし、同じような環境に置かれていても、心身の苦しさの深さには大きな差が生まれることがあります。その違いを生んでいるのが、出来事そのものではなく、それをどう捉えてきたかという点です。

環境が変わっても、捉え方が変わらなければ、同じ苦しさに再び直面することがあります。だからこそ、休職期間は「いつ復帰するか」を急いで考える時間ではなく、自分自身の思考の癖や感情の扱い方を見直すための時間として捉えることが重要になります。

私はこの視点を、「二極コーチング」という考え方として伝えています。それは、物事を1つの正解に決めつけるのではなく、どちらにも価値があると認める捉え方です。

休むことにも価値がある。働くことにも価値がある。続けることも選択肢であり、辞めることもまた尊重されるべき選択肢です。

「どちらかを選ばなければならない」という思考から離れ、「どちらもあっていい」と捉え直すだけで、人は必要以上に自分を追い詰めずに済むようになります。この視点は、教員に限らず、保護者や教育関係者、そして日々責任ある立場で働く全ての人にとって、心の余白を取り戻すヒントになるはずです。

休職中に捉え方を変えた先生の事例
学校(イメージ)

休むことにも価値がある。働くことにも価値がある。どちらもあっていい 

1人で抱え込まないことが、回復と再出発の第一歩になる

教員の休職は、決して学校だけの問題ではありません。教員が追い詰められれば、その影響は子どもや家庭、ひいては教育現場全体におよびます。だからこそ、休職を「個人の問題」として切り離すのではなく、社会全体で捉え直す必要があります。

その際、重要になるのが「1人で抱え込まない」という視点です。

多くの教員は、責任感の強さから、自分の中で状況を整理し、何とか解決しようとします。しかし、苦しさが深まっているときほど、思考は知らず知らずのうちに偏り、自分ではその偏りに気付きにくくなっていきます。

そのようなときに、人に話を聞いてもらうことには、大きな意味があります。

それは単に愚痴を吐き出すことではありません。言葉にして伝え、誰かに受け止めてもらう過程で、「自分はこういう前提で考えていたのか」「こんな捉え方に縛られていたのか」と、自分1人では見えなかった思考の癖に気付くことができるからです。

教員脳が強い人ほど、「自分で考えなければ」「自分が耐えなければ」と思い込みやすく、人に頼ることを後回しにしてしまいます。しかし、回復や再出発のために必要なのは、完璧な答えを出すことではなく、自分の内側で何が起きているのかを安全に言葉にできる場です。

休職によって、これまで積み重ねてきた経験や価値が失われるわけでもありません。教員脳という思考の癖を理解し、捉え方を整え、人に頼ることを知った先生は、以前よりもしなやかに教育と向き合えるようになります。

休職とは、止まるための時間ではなく、これからを選び直すための調整期間なのです。

教員として、保護者として、教育に関わる1人の大人として。この現実をどう受け止めるかが、これからの教育の在り方を左右していくのではないでしょうか。

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