また、近年、首都圏では中学受験率が上昇傾向です。全国では私立・国立中学校に通う生徒は約8.3%程度ですが、東京都では約25%が在学していると報告されています。また、中学受験の準備は低年齢化しているとも言われています。わが子の将来を思うと、できる限りサポートしたくなるのは自然なことかもしれません。
しかし、親の受験サポートが過剰になり、逆効果になってしまうご家庭も少なくないようです。では、親としてはどうするのが「正解」なのでしょうか?
今回は最新研究をもとに、子どもの心身の健康を守り、持てる力を最大限に発揮させるための「親の心構え」に関する「3つの新常識」を、児童精神科医の視点から解説します。
まずは中学受験の特殊性をまず念頭に……高校受験・大学受験にはない親の関わり
中学受験は「親子の受験」とも呼ばれます。小学生は、将来を見据えて自律的に長時間勉強へ取り組めるほど成熟している年齢ではありません。そのため、塾の送迎やお弁当作り、スケジュール管理、学習のフォローなど、親の関与は多岐にわたります。このような親子二人三脚の努力は、子どもの自立度が高い高校受験や大学受験には見られず、中学受験特有のものです。だからこそ、「親がどう振る舞うか」が中学受験では非常に重要になります。
それでは、親はどのような点を意識すればよいのでしょうか。ここからは、最新研究から見えてきた「3つの新常識」を見ていきましょう。
【新常識1】中学受験の土台は「睡眠」! 学力・集中力・感情安定を左右する最優先事項
もし「どこから手をつけてよいか分からない」と感じたら、まずは睡眠の確保からサポートしてみてください。中学受験でも「受験生だから睡眠時間が短くなるのは仕方ない」と考えられがちですが、睡眠不足は学力向上の最大の阻害要因の1つです。厚生労働省は、小学生に必要な睡眠時間は9~12時間としていますが、実際の調査では、小学4~6年生の平均睡眠時間は約8時間という報告もあります。推奨時間より1時間以上も短いのが実情なのです。そして科学的に見ると、この「睡眠不足」こそが受験勉強の最大の敵なのです。
睡眠中には、日中に学んだ情報が整理され、記憶として定着します。睡眠が不足すると、せっかくの学習内容が定着しにくくなるだけでなく、集中力も低下します。感情のコントロールも難しくなるため、イライラや不安感など情緒不安定にもつながる点も問題です。さらに成長ホルモンの分泌や免疫機能にも影響するため、心身の健康そのものを損なう可能性があります。
受験をサポートしたいのであれば、まずは睡眠時間を削らないこと。そのうえで、限られた時間でどう学習効率を高めるかを考える姿勢が重要です。
【新常識2】勉強前の「軽い運動」で記憶を伸ばす……上手な脳科学的アプローチ
十分な睡眠を確保した上で、次に意識したいのは、意外にも「運動」です。受験期はどうしても運動が後回しになりがちですが、近年の研究では、運動が脳機能や記憶力を高める有効な手段であることが示されています。2025年の最新研究では、大学生に20分間の中強度の自転車運動をさせたところ、運動しなかったグループに比べ、記憶した単語を8週間後も有意に多く覚えていた(長期記憶が強化された)という結果が報告されています。
これは、運動によって分泌される「ドーパミン」や「BDNF(脳由来神経栄養因子)」などの物質が影響していると考えられています。これらの物質は、記憶の形成や神経細胞同士のつながりを強化する「脳の可塑性」に深く関わっていて、「覚えたことを忘れにくくする」働きを持つためです。
重要なのは運動のタイミングです。学習の直前、あるいは学習直後に軽く体を動かすことで、記憶がより定着しやすくなると分かっています。
- 塾に行く前に少し早歩きする
- 勉強を始める前に10分だけラジオ体操やサイクリングをする
【新常識3】合否より重要な「親の関わり方」……中学受験と教育虐待のリスクを知る
上記の睡眠や運動のサポートは大切ですが、サポートそのものよりもさらに重要なのは、「親の関わり方」です。
研究では、親の関わり方は通常大きく「直接介入型」と「間接介入型」に分けられるとされています。
■直接介入型(スパルタ教育的)
成果を重視し、直接的な指示や命令によって子どもを動かそうとする関わり方です。「人格を否定するような発言をする」「悪い成績の罰として手を上げる」など、心理的・身体的な暴力によって子どもを動機づけようとします。
■間接介入型(サポート・環境整備)
学習環境を整えたり、塾と良好な関係を築いたり、温かく応援したりすることで、間接的に子どものやる気・主体性を引き出そうとする関わり方です。
「中学受験当時の父・母の関わり」の調査と分析からは、直接介入型の関わりが、教育虐待(EM:エデュケーショナル・マルトリートメント)に該当するケースが一定数あると明らかになっています。身体的暴力については、父親から13.6%、母親から12.8%。心理的暴力については、父親から10.5%、母親から14.3%に認められたとされています。
言うまでもなく、教育虐待は「大人が子どもに対して教育のつもりで行う、子どもの発達や健康にとって不適切な行為」です。「子どもたちが自分の生きる世界を理解し、把握するために学びたいという、真の人としての成長発達のニーズではなく、大人の将来への不安や欲望から強制的に学ばされている状態」とされています。
特に父親からの強い直接介入は、男子において「目的のためなら厳しい指導も仕方ない」という容認志向を高める傾向が指摘されています。
一方で、母親による間接介入型のサポートは、特に女子の中学受験経験に対する「満足度」を高める傾向が見られました。
もちろん、性別や家庭環境によって最適な関わり方は異なります。しかし、親が合否の結果のみに囚われすぎると、その焦りが子どもへの「過剰な介入」につながりやすいのです。
合否は最後まで分かりませんが、結果以上に大切なのは、「あの時、自分なりに頑張れた」というポジティブな記憶を子どもに残してあげることではないでしょうか。親の不安が過剰な介入につながらないよう、意識的に距離を取ることが大切です。
時には厳しい態度も必要かもしれませんが、ぜひ必要以上に子どもを追い込まないようにして、温かく見守ってあげてくださいね。
■参考文献
1. 浅見里咲.中学受験期に起きるエデュケーショナル・マルトリートメント.日本女子大学大学院紀要 2025;31:103-114.
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R000000016-I2013490421
https://jwu.repo.nii.ac.jp/record/2000531/files/11%E7%B4%80%E8%A6%8131%E5%8F%B7%E3%80%80%E6%B5%85%E8%A6%8B%E9%87%8C%E5%92%B2.pdf
2. 大橋恵,井梅由美子, 藤後悦子.中学受験を選ぶ家庭と選ばない家庭の違い.Journal of Human Environmental Studies 2023;21:39-46.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/shes/21/1/21_39/_pdf
3. Noriteru Morita,Toru Ishihara,Charles H Hillman,et al.Movement boosts memory: Investigating the effects of acute exercise on episodic long-term memory.J Sci Med Sport
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https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/39572311/








