年金

繰り下げしなくても年金は増やせる?専門家が教える、もう1つの選択肢

繰り下げ受給が注目される一方で、「年金を何年も受け取らずに待つのは不安」という声も多く聞かれます。今回は、年金増額を目指すもう1つの選択肢について、経済ジャーナリストの酒井富士子さんに教えてもらいました。※サムネイル画像:PIXTA

酒井 富士子

酒井 富士子

60代の得する働き方 ガイド

ファイナンシャル・プランニング技能士

経済ジャーナリスト。株式会社回遊舎 代表取締役。上智大学新聞学科卒業後、日経ホーム出版社に入社。「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルートに入社。「赤すぐ」(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から現職。近著に『60代の得する「働き方」ガイド』がある。

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年金の繰り下げ受給が広く注目される一方で、「今の生活を考えると、年金を何年も受け取らずに待つのは不安」という声も多く聞かれます。では、繰り下げ(最大で年8.4%の増額)に近い効果を、もっと現実的に得る方法はあるのでしょうか。

経済ジャーナリストでAll Aboutマネーガイドの酒井富士子さんに詳しく教えてもらいました。

繰り下げ受給に匹敵する!?現実的な運用戦略

繰り下げ受給には、年金額が最大84%増えるという大きなメリットがあります(※)。ただし、繰り下げを選ぶと一定期間は年金が入ってこないため、ライフイベントも多く生活費のやりくりが安定しない60代の方にとっては、現実的でないケースもあります。

長期的に働けるかやいつまで健康でいられるのか読めない中で、年金を数年受け取らないという判断は、簡単ではありません。

そこで考えられる現実的な方法が、繰り下げはせずに年金を受け取り、その一部を投資に回すという選択です。

例えば、年金を受給し始めた後、毎月受け取る年金の中から一部を投資に回すことを考えてみましょう。投資先としては、国内外の株式に広く分散投資を行う「全世界株式インデックスファンド(オルカンなど)」などを考えてはどうでしょう。

全世界株式の利回りは、長期的に6~8%程度が期待できるといわれています。これは繰り下げによる増額率と近い水準で、長期間継続すれば十分に効果が見込めます。

さらに、投資であれば「今月は1万円だけ」「来月は少し減らす」といった柔軟な調整ができます。こうした自由度は、老後の資産を長く持たせるうえでとても大きな意味があると思います。

生活費は年金でしっかり確保しながら、年金の一部を投資に回すことで、その資金部分が繰り下げ受給の増額分に相当するという、現実的で負担の少ない方法も選択肢となるでしょう。

ただし、短期的には下落して元本割れもありえます。65歳から投資を始めたら85歳以降に使うお金にあてることを考えましょう。

※昭和27年4月1日以前生まれの方の増額率は最大42%(繰り下げの上限年齢が70歳までのため)

夫婦で考えたい「基礎年金だけ繰り下げる」という方法

また、夫婦の場合におすすめしたいのが、基礎年金(国民年金)のみを繰り下げるという方法です。

なぜ基礎年金だけ繰り下げるのかというと、万が一、夫(または妻)が亡くなった場合、残された配偶者が受け取る遺族年金に、基礎年金の部分は含まれません。

つまり、基礎年金を繰り下げて増額しておけば、夫婦どちらが長生きしてもその増額分は必ず本人が受け取れるということです。この点が、老後の長生きリスクに備えるうえで非常に有効だと感じています。

年金の受け取り方には、正解が1つではありません。繰り下げが向いている方もいれば、受給しながら運用を続けたほうが合う方もいます。大切なのは、「今の生活が成り立つこと」「無理なく続けられる方法を選ぶこと」だと私は思っています。

ご自身のライフスタイルやリスクの取り方に合わせて、最適なバランスを見つけていただければと思います。
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