しかし今や、忙しい現代人にとって温泉に長期滞在するのは、なかなかハードルが高いもの。そんな状況を受けて、環境省が2017年から提唱しているのが「新・湯治」。温泉だけでなく、その土地の自然、歴史、文化、食などを楽しみながら心身をリフレッシュする、現代的な温泉地の過ごし方です。
<目次>
温泉の新しい過ごし方。環境省が注目する「新・湯治」とは
環境省の調査(※)では、こんな結果が出ています。「疲れが取れた」「肩こりが楽になった」と答えた人の割合は、日帰りや1泊2日でも3泊以上とほぼ同じ。短い旅行でも多くの人が温泉の効果を実感しています。
もう1つ興味深いのが、単に湯に浸かるだけより、温泉地でアクティビティを楽しんだ方が「肌の調子がよくなった」「ストレスが減った」と答える人が増えること。温泉+αの過ごし方が効果があるようです。
 
※環境省全国「新・湯治」効果測定調査プロジェクト6カ年調査結果(平成30年度-令和5年度)
もう1つ興味深いのが、単に湯に浸かるだけより、温泉地でアクティビティを楽しんだ方が「肌の調子がよくなった」「ストレスが減った」と答える人が増えること。温泉+αの過ごし方が効果があるようです。
「界 別府」で実践! 1泊2日の現代湯治体験
この「新・湯治」と同じような考え方で、星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」が提供しているのが「うるはし現代湯治」というプログラム。疲労した心身を1泊2日で整え、明日への活力を生み出すことを目指すもので、環境省の調査にも関わった温泉療法専門医で、東京都市大学人間科学部教授(医学博士)でもある早坂信哉先生が監修しています。今回は、日本一の源泉数を誇る別府温泉の温泉宿「界 別府」のプレスツアーに参加し、現地で実際に体験してきました。一体どんなものなのか、紹介します。 早坂先生によれば、界の「うるはし現代湯治」にはいくつか特長があるとのこと。実際に体験して「なるほど、これが現代湯治か」と納得したポイントを紹介します。
1. 温泉地を手軽に楽しめるアクティビティがある
環境省の調査でアクティビティの効果が示されていますが、界ではご当地楽(ごとうちがく)と称したアクティビティを用意しています。施設によって内容は異なりますが、「界 別府」では「湯治ジャグバンド」と題し、夕食後の時間に温泉の湯と桶を使った音楽パフォーマンスを実施。宿泊客みんなで盛り上がる一体感がたまりません。 食事もご当地色が豊か。夕食の「豊後鍋とりゅうきゅうの会席」では、季節の味覚と地元の海の幸をたっぷり使った海鮮鍋に、大分の郷土料理・りゅうきゅうも付きます。大分の伝統工芸品である小鹿田焼の器や竹細工も使われ、目と舌で地域文化を味わえます。2. 転地作用が高まる工夫がいろいろ
早坂先生いわく、温泉が健康によいといわれる理由の1つが「転地作用」。いつもとは違う場所に身を置くことでリラックスできる効果のことです。界では、その転地作用をより感じられるプログラムが充実しています。例えば朝は「現代湯治体操」からスタート。呼吸法と軽いストレッチで目覚めスッキリ。そのあとの朝風呂の気持ちよさといったらありません。 そして別府ならではのプログラムが「別府レトロ湯めぐり旅」(※有料)。別府市内に点在する100カ所以上の共同浴場「ジモ泉」から気になるところを巡ります。スタッフに入浴マナーを習ったあとは、タオルや桶がセットになった「ジモ泉のおとも」を持って、いざ街へ。 今回、「界 別府」から徒歩圏内の竹瓦温泉の砂湯を体験しました。温泉を含んだずっしり重い砂に包まれるのは何ともいえない不思議な感覚。最初は重さに驚きましたが、次第に慣れ、15分もすると汗だくに。温泉とはまた違う圧力が新鮮でした。湯上りには地元クラフトビール「ジモビール」と、臼杵煎餅を使った「ジモアイス」でクールダウンまでがセットになっています。
別府は温泉法で定められた10種類の泉質うち7種類を楽しめるというぜいたくさ。エリアごとに景観も香りも違うので、湯巡りも楽しい温泉地です。
3. はずしのない安心感
早坂先生いわく「界ブランドはハード面、ソフト面ともにはずさない安心感があるのもポイント」とのこと。ハード面では、「界 別府」のデザインを手掛けているのは隈研吾氏。洞窟のようなエントランスを抜けて館内へ進むと、広がっているのは「ドラマティック温泉街」をコンセプトにした館内。朝・昼・夜と時間帯によって雰囲気がガラリと変わります。 客室は全室オーシャンビュー。別府湾が一望でき、時間とともに変わる海と空の色は眺めているだけで癒やされます。室内の壁は別府の名所「血の池地獄」をイメージした柿渋色で、落ち着いた雰囲気。ヘッドボードには豊後絞りがあしらわれており、大分の伝統工芸を身近に感じられます。 ソフト面では、温泉の入浴法や呼吸法、くつろぎ方などを館内の湯上り処や壁面、また客室に置かれたガイドブックで案内しています。 スタッフが“界の湯守り”という名のガイド役として、効果的で楽しい湯治の方法を教えてくれる「温泉いろは」の時間もあり、温泉とアロマオイルを使った「温泉ミスト作り」も体験できました。正しい温泉入浴法も聞いてきた
今回プレスツアーに同行してくれた温泉のエキスパートである早坂先生に「正しい温泉の入浴法」の基本も教わってきました。まず「大事なのは欲張らないこと」だそう。40度前後のお湯に10分くらいを目安に、汗ばんだら欲張らずに出るのがポイント。「せっかく来たから」と長湯しがちですが、頑張って入っていると、のぼせてしまうことも。
また、ついやりがちなのが、寝る直前の入浴ですが、できれば就寝の90分前までに入浴を済ませ、体温が自然に下がるのを待つと深い眠りにつながるそう。実際にこれを意識して入浴したら、いつもよりぐっすり眠れた気がしました。
そして大事なのが水分補給で、目安は入浴前後に500ml。入浴後はもちろん入浴前にもコップ1~2杯は飲むのがよいそう。界ではお風呂に「湯守りのこだわりドリンク」が用意されており、別府では麦茶とゆず蜜を飲めました。 温泉を出るときにかけ湯をするかどうかは泉質次第とのこと。「界 別府」はナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉なので、成分を肌に残したままでOK。色やニオイがある湯、ピリピリする場合は洗い流した方がよいそうです。
共同浴場などではたまにものすごく熱いお湯に出会うことがあります。そんなときの対処法は……? 早坂先生の答えは、無理せずかけ湯だけにするか、足湯や半身浴から始める、湯尻(お湯が出てくる場所から遠い場所)から入る、許可されるなら水で薄めるなど、自分に合った方法で楽しむのがコツとのことです。
湯治が次のウェルネストレンドになるかも!?
ちなみに別府といえば、日本一の源泉数と湧出量を誇る温泉地。市内には2854カ所もの源泉があり、日本全国の約10%が集中しているという温泉天国。温泉以外にも、温泉の知識が深まる「地獄温泉ミュージアム」や温泉を利用した蒸し料理を体験できる「地獄蒸し工房鉄輪」など温泉にちなんだ楽しいスポットを楽しめました。サウナブームで「サ活」という言葉が広まりましたが、「現代湯治」が次のウェルネストレンドになるかもしれない……そんなことを感じた1泊2日の現代湯治体験でした。
取材協力:界 別府























