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ジブリ映画やゼルダは、若者のメンタルに好影響? 児童精神科医が考えるゲーム・アニメの影響と注意点

【児童精神科医が解説】「ゲームやアニメは脳に悪影響」という見方に対し、近年は若者のメンタルヘルスによい影響を与える可能性も報告されています。『ゼルダの伝説』やジブリ映画を用いた研究から、良質なコンテンツの健康への影響を考えてみましょう。(※画像:アマナイメージズ)

秋谷 進

秋谷 進

医師 / 子どもの健康・医療ニュース ガイド

小児科医・児童精神科医・救急救命士。金沢医科大学卒業後、国立小児病院小児神経科、獨協医科大学越谷病院、三愛会総合病院、東京西徳洲会病院小児医療センターを経て、たちばな台クリニック小児科。小児神経・児童精神を中心に診療に従事している。

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ゲームをする女性

ゲームやアニメには心の健康に役立つ? 最新の研究から分かってきたこととは 

ゲームやアニメは、私たちにさまざまな体験をさせてくれます。皆さんも、ドキドキしたり、スリルを感じたり、時には感動して泣いてしまった経験があるのではないでしょうか。特に日本のゲームやアニメは、世界的な知名度も高く、文化として定着しています。しかし一方で、「ゲームやアニメは脳に悪影響」という見方も根強く存在します。確かに、どのようなコンテンツであれ、内容や利用時間によって悪影響が出る可能性は否定できません。

近年では、ゲームやアニメが人に与える影響を科学的に検証する研究が進み、ポジティブな効果も明らかになりつつあります。今回は、そうした「よい影響」にフォーカスした研究をご紹介します。

ゲームやアニメは若者の心の健康に役立つ? 不安・孤独感の問題から行われた調査

近年、若年層の不安や孤独は、大きな社会課題となっています。大学院生も例外ではありません。勉強・将来・人間関係など、多様なストレスにさらされ、心の健康を崩してしまうこともあります。

そのようななかで、「ゲームや映画は単なる娯楽を超え、心の支えになり得るのではないか」という仮説が立てられました。この研究では、特に以下の2つのコンテンツが選ばれ、調査されました。
  • 『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』……広大な世界を自由に冒険できるオープンワールドゲーム
  • スタジオジブリの映画(『となりのトトロ』もしくは『魔女の宅急便』)……多くの人に子どもの頃から親しまれ、強い懐かしさを呼び起こす作品
これらのコンテンツが含む「探検の自由」「懐かしさ」「落ち着き」「熟達感」「人生の意味付け」といった要素が、若者の幸福感によい影響を与えるのではないかと考え、調査が進められました。

518名の大学院生が回答! ゲームやアニメの後で見られた心の状態の変化は?

研究の対象となったのは518名の大学院生で、参加者はランダムに以下の4グループに分けられました。
  • ゼルダのプレイ+ジブリ作品鑑賞
  • ゼルダのプレイのみ
  • ジブリ作品鑑賞のみ
  • 何もしない
※ゼルダはNintendo Switch携帯モードで30分プレイ。ジブリ作品は7分間のクリップの鑑賞

その後のアンケートで、「どのくらい幸福だと感じているか」「探検心や落ち着きがどの程度高まったか」「自分の能力を発揮できたと感じたか」「人生に意味を見いだせたか」を回答してもらい、統計的に分析しました。

分析の結果、まず明らかになったのは、「ゼルダをプレイした人は、しなかった人より幸福感が有意に高い」という結果でした。広大な仮想世界を自由に探検し、パズルを解いてアイテムを手に入れる達成感が得られる体験が、若者たちの気持ちを前向きにし、幸福感をもたらしたと考えられます。そして、ジブリ映画を見て懐かしさを感じた人には、より強い幸福感の上昇が見られました。

ゼルダとジブリ作品の両方を体験したグループは、幸福感や落ち着きが2倍以上に高まったと報告されています。ゼルダのゲームを通じて感じた冒険体験に、ジブリ作品で呼び起こされる「安心できる思い出」が組み合わさったことで、より一層幸福感が高まったと考えられます。

また、ゲームが幸福感の向上に影響した心理要素として、
  • 自由に探検している感覚
  • 心が落ち着く感覚
  • 能力を発揮できた感覚
  • 目的や意味を見いだす感覚
などが関係していると報告されています。「ただ楽しいだけの体験」ではなく、探検・熟達・安心・人生の意味といった多面的な心の動きを経験することが、幸福感につながったということです。

児童精神科医として考える、娯楽にとどまらない遊びのメリット・注意点

この研究では、ゲームやアニメは単なる娯楽にとどまらず、若者の心によい影響を与える可能性があると明らかになりました。「ゲームやアニメは子どもに悪影響」という従来の偏った見方に対し、「むしろポジティブな役割を持ち得る」という新しい視点を提供してくれる結果が示されたと言えるでしょう。

しかし、筆者は児童精神科医として、この研究を根拠に「ゲームを積極的に推奨すべき」とまでは言えません。理由は、子どもは大人のように自制ができず、際限なく遊んでしまう危険性があるためです。筆者自身も小学校5年生で家庭用ゲーム機と出会い、達成感に夢中になり、親に隠れて何時間も没頭してしまった経験があります。

大学院生はもう成人の年齢ではありますが、さらに小さな子どもから学生まで、学校や社会での理不尽なことが、ゲームやアニメ鑑賞でリフレッシュできる面もあります。うまくバランスをとって楽しむことは、よいストレス解消にもなるでしょう。かつては外で集まって自由に遊べた環境が、今では少子化や治安の問題で失われつつあります。遊びを通じて、友達と支えあう機会すら減っているのが現状です。その意味では、ゲームを通じてさまざまな体験を得ることは、むしろ大人が子どもに与えるべきであり、授業などで取り組むべきではないかとさえ考えています。

特に、広大な世界を自由に探検できるオープンワールドのゲーム体験は、現実生活で感じにくい「自由」「達成感」「目的意識」を補う役割を果たせます。また、ジブリ作品のように懐かしさを呼び起こすコンテンツは、心に安心感やつながりを与え、幸福感をさらに高めてくれるようです。孤独や不安を和らげるために、こうした体験型のエンターテインメントは有効な手段になり得ると考えられます。もちろん、全ての人に同じ効果があるとは限らず、研究はまだ初期段階です。

今後は教育やメンタルヘルスの領域でも、これらのコンテンツがうまく活用されていくことが期待されます。

■参考文献
Annisa Arigayota,Barbara Duffek,Congcong Hou,et al.Effects of The Legend of Zelda: Breath of the Wild and Studio Ghibli Films on Young People's Sense of Exploration, Calm, Mastery and Skill, Purpose and Meaning, and Overall Happiness in Life: Exploratory Randomized Controlled Study.JMIR Serious Games.2025 Aug 1:13:e76522.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40750097/
 
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