「日本製の珍しい厚底特許シューズ」
34年ぶりに東京で開催されている2025世界陸上のオープニング競技「男子競歩35km」(9月13日実施)で、日本代表の勝木隼人選手が銅メダルを獲得しました。気温が30℃近くまで上がる過酷な状況の中、日本代表の川野将虎選手をはじめとする有力選手が、レース後半に次々と脱水症状などで失速や棄権する場面が見られましたが、勝木選手は最後までペースを大きく落とすことなく、見事銅メダルに輝きました。
筆者は、勝木選手の腰高フォームが最後まで崩れず安定していたことが勝因の一つだと考えていますが、その勝木選手の素晴らしい歩きを支えていたのが、実は「日本製の厚底特許シューズ」なのです。しかもかなり珍しいシューズを着用していました。
さらに、勝木選手のみならず、ほかの競歩選手らも厚底シューズを使用していました。マラソンや箱根駅伝ではすでに一般的となっている厚底シューズですが、競歩でも広く普及している状況です。
しかし、競歩には特有の事情があり、マラソンや箱根駅伝で使われている厚底シューズとは異なるシューズが使用されることが多いのです。では、競歩における厚底シューズ事情は、どのようになっているのでしょうか。
競歩ならではの厚底シューズ事情
2019年7月にNIKEが販売した「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」の登場により、マラソンや箱根駅伝では厚底シューズが一気に普及し、現在ではほぼ全てのトップマラソンランナーが厚底シューズを履いています。その後次第に競歩でも厚底シューズを使用する選手が出始めました。
厚底シューズ旋風を巻き起こした「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」※画像:NIKE 公式Webサイト
競歩は、必ず片方の足が地面に着いていなければならないので、跳ね返りが強過ぎるシューズでは両足が浮いてしまいやすく、「ロス・オブ・コンタクト」と呼ばれる違反行為の警告を受けやすかったのです(警告を4回受けると失格になってしまいます)。
その後、「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」の対抗馬としてadidasの「ADIZERO ADIOS PRO」が販売されましたが、これもソールの中に5本指カーボンロッドというバネのようなものが入っている構造であったため、とても跳ね返りが強くやはり競歩に向かないシューズでした。
そうした中、競歩選手らがたどり着いた厚底シューズが、asicsの「METASPEED」シリーズのシューズでした。
>次ページ:競歩で使用するにはちょうどいいシューズ