転職のノウハウ

入社3日目で辞めた23歳と定年3年前に辞めた57歳の「共通点」…“退職理由”に見る会社との向き合い方

職場に長くとどまる人もいれば、違和感を覚えてすぐに辞める人もいる。その「決断の本質」は世代や経験の差を超えて共通している場合がある。なぜ人は会社を辞めるのか。その問いへのヒントは、2人の異なる立場・異なる年代の決断の中に見いだせる。※画像:PIXTA

小松 俊明

小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職 ガイド

東京海洋大学教授。専門はグローバル教育/キャリア教育。サイバー大学客員教授を兼任。著書は「できる上司は定時に帰る」「35歳からの転職成功マニュアル」「人材紹介の仕事がよくわかる本」「エンジニア55歳からの定年準備」他。元ヘッドハンターで企業の採用事情に詳しい。

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入社3日目で辞めた23歳と定年3年前に辞めた57歳。2人の退職理由は同じだった ※画像:PIXTA

入社3日目で辞めた23歳と定年3年前に辞めた57歳。2人の退職理由は同じだった ※画像:PIXTA

転職が珍しくない時代。仕事内容や待遇、人間関係など、会社を辞める理由は人それぞれだ。しかし、実際には世代や経験に関係なく、根本的な動機に共通点があることは意外と多い。

本稿では、入社3日目で退職した加藤さん(23歳)と、定年3年前に転職を決断した櫻井さん(57歳)の2人のケースから、「会社との向き合い方」を考察する。

入社3日目に退職を決断した加藤さん

「毎年誰よりも早く誕生日を迎えるんです」と笑顔で語るのは加藤さん。今年の4月2日に23歳になったばかりだが、新卒で入社した大手化学メーカーをわずか3日で退職した。入社式を終えたばかりだった。

入社直後に退職した加藤さんは一見、何かと話題になりがちな「早期退職者」の典型かと思われた。しかし、よく話を聞くと、その背景には単なる入社後のミスマッチ以上に「会社との価値観のズレ」があったという。

ズレを感じたのは内定後すぐ

ズレを感じ始めたのは内定後すぐだった。加藤さんは無給のまま「推奨」と称された実質強制の“入社前研修”へ参加させられたのだ。会社は建前では強制とは言わないものの、実際は研修を受けなければ入社後に予定されている次のステップについていけなくなるような、基礎研修という位置付けになっていたという。

これに加藤さんは違和感を抱いた。会社は「推奨」と言いつつ、実際は暗黙の義務を課す。こうした「会社のルール」が加藤さんには閉鎖的なものに映ったのだ。

それでも3月までには入社前研修をすべて受講しきった。研修に参加したおかげで会社の事業内容への理解は深まったため、4月1日の入社式には前向きな気持ちで臨み、自分と同様な境遇にある同期入社の仲間たちとの出会いも楽しみだった。

同期との疎外感と会社の「暗黙のルール」

しかし、早くも二度目の違和感を覚えることになる。入社式当日、都内の有名大学出身者ばかりの同期たちの中で孤独を感じ、さらに夜に行われた懇親会で「学閥」を目の当たりにしたのだ。先輩社員が出身大学ごとに輪を作り、地方大学出身の自分は少数派であることを強く実感した。

懇親会では、都内の国立大学や有名私立大学出身の同期入社の新人たちが独自にLINEグループを作っていた。よく見ると、懇親会に出席している先輩社員も有名大学出身者ばかりで、先輩社員たちはそのことを隠すこともなく、自然と各出身大学グループの新入社員の輪に入って場を盛り上げていた。あえて、地方大学出身の加藤さんを省くように……。

古い時代には学閥が強い会社があったと親の世代から聞いたことはあったが、自分が今、目撃しているのは、まさにその学閥の姿ではないかと思ったという。これからの会社生活で、この会社の中に自分の居場所はあるのかと不安がよぎった。

さらに、翌日に行われた説明会では「新卒1年目は有給休暇を取得できない」と説明され、そうした慣習が「会社では当たり前」とされることにも納得できなかったという。同期に悩みを打ち明けても話題を避けられ、「価値観も共有できない」と痛感したそう。

自分1人だけ拒絶されているような環境で、さらに同世代の同期たちとも距離を感じた加藤さんは結局、短期間での退職を決意した。

加藤さんは「今思えば自分は少しナイーブだったのかもしれない」と当時を振り返りながらも、短期で退社したことは後悔していないと力強く語っていた。

定年3年前に退職を決断した櫻井さん

一方、35年もの間、中堅部品メーカーで働き続けた櫻井さんもまた「会社との価値観のズレ」に直面し、退職を決断した。

櫻井さんは新卒入社した会社で35年勤めたベテラン社員。50代前半で課長を経験した後は、課長付として若手社員の育成や特命プロジェクトに取り組んでいた。これまでの会社生活では、序列や忖度(そんたく)、暗黙のルールに幾度となく悩まされてきたが、同年代の社員らと愚痴を言い合いながら、なんとか続けてきた。

同社は60歳定年で、定年後に契約社員などとして再雇用されたうえで、65歳まで会社に残るという選択肢が示されている。同年代の社員の多くは、たとえ給与などの待遇面が低下したとしても、65歳まで残ると決めていた。

一方で櫻井さんは、60歳で全員が自動的に退職することになり、仕事内容や待遇がその後、悪くなるという会社の仕組みに対して疑問を感じていた。仕事にはそれぞれ適材適所があり、人によって能力ややる気、貢献度にも差はある。常に正しく物事を評価することの難しさは理解している。また、ベテランが一線から退き、若手にバトンタッチしていくことの大切さにも納得している。

ただし、定年後の大幅な給与ダウンなど、本人の貢献度や意欲に無関係な「年齢一律のルール」に、いよいよ自身が当事者となる局面で、「これは本当に公平なのか」と自問。結果、櫻井さんは会社を離れ、自分らしいキャリアや働き方を求めて転職活動を始めることを決意した。

再就職活動で重視したこと

新しい会社を選ぶ際、櫻井さんが重視したのは「社内の風通しのよさ」「経営者の価値観」「社員が自由に発言できる環境」など、形式的なルールに縛られないオープンな企業文化だった。企業規模にはこだわらなかった。

始めは思うように進まなかったものの、粘り強く転職活動を続けて、約半年後にようやく納得のいく転職先を見つけることができた。ベテラン社員の採用に積極的な会社で、60代、70代の社員も活躍しており、そうした先輩社員らとの面談を組んでくれて、仕事のことや会社生活についていろいろ聞けたこと、まさにオープンな社風があったことが決め手となった。

2人に共通した根本的な判断基準

加藤さんと櫻井さんは、世代や経験は大きく異なる。しかし2人に共通しているのは、「会社の暗黙ルール」や「みんなが従うべき既存の価値観」に疑問を持ち、1人の社員として会社と対等でありたいという姿勢だ。

会社での評価・待遇やルールは、時として個々人の価値観や努力、人生観と合致しないこともある。会社という組織に自分が合わせ続けるのか、自分自身が主導権を持って環境や働き方を選ぶのか。あなたは分岐点に立った時、どう選択するだろうか。

加藤さんと櫻井さんの事例は、世代や経験を超えて「主体的に自分のキャリアを選び取る」という、会社との向き合い方の本質を問い掛けている。
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