
見た目では分かりにくい症状が続く「コロナ後遺症」とは ※画像はイメージ(出典:Shutterstock)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、私たちの生活を大きく変えました。感染症自体は収束に向かいつつありますが、感染後も長期間にわたって症状が続く「コロナ後遺症」、いわゆる「Long COVID」に苦しむ方が少なくありません。
コロナ後遺症は、見た目では分かりにくく、周囲の理解も得られにくい病態です。患者さんご自身だけでなく、ご家族や周囲の方にとっても大きな負担となることがあります。
この記事では、コロナ後遺症の定義や、その多様な症状、現在行われている治療や生活支援の実際について解説します。
WHOによる定義は? 多様な症状が続く「Long COVID」の実態
コロナ後遺症とは、新型コロナウイルス感染後、急性期を過ぎた後にも、多様な症状が長期間続く状態を指します。感染から数週間、あるいは数カ月経過しても症状が改善しない、または一度よくなった後に再発するケースもあります。世界保健機関(WHO)は、コロナ後遺症を以下のように定義しています。
コロナ後遺症の原因はまだ完全に解明されていませんが、いくつかの仮説が考えられています。ウイルスの体内残存、免疫機能の異常、血管・血栓形成の異常などです。「SARS-CoV-2感染の可能性のある、または確定診断された既往歴のある個人において、通常は発症から2ヶ月以上持続し他の診断では説明できない症状を特徴とする状態」
コロナ後遺症の症状は? 全身倦怠感や呼吸器症状など多様
コロナ後遺症の症状は実に多様ですが、主に挙げられるものは以下のようなものです。- 全身倦怠感
- 呼吸器症状:息切れ、呼吸困難、慢性的な咳
- 神経・精神症状:ブレインフォグ(思考・集中・記憶力の低下)、睡眠障害、頭痛、めまい、抑うつ、不安感
- その他:味覚・嗅覚障害、関節痛、脱毛
コロナ後遺症の診療・治療・サポート:求められる寄り添う医療の実践
現在、コロナ後遺症に対する明確な治療薬は残念ながら存在しません。しかし、症状ごとの対症療法や生活面での支援が有効であるとされています。まず、感染後に全身倦怠感や息苦しさが続く場合は、かかりつけ医やお住まいの地域の内科を受診することを推奨します。なぜならこれらの症状は、以下のような疾患が原因の可能性もあるからです。
- 2型糖尿病
- 甲状腺機能異常
- 慢性心不全
- 自己免疫疾患 など
■治療で使われる主な薬・生活支援
症状に合わせて、以下のような薬の処方や、生活支援を行います。
- 症状に応じた薬の選択・使用:抗炎症薬、抗うつ薬など
- 生活指導:無理をしない生活リズムの指導
- 適切な栄養指導:バランスの取れた食事。亜鉛など不足栄養素の補給が有効という報告もあります
使用される漢方薬の例としては、十全大補湯、人参養栄湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、苓桂朮甘湯、補中益気湯などです。これらは体質改善や自然治癒力を高めることを目的として処方されます。前述の症状に応じた西洋薬と併用されることも多いです。
日常生活で気を付けるべき、全身倦怠感の管理
コロナ後遺症で最も多く見られ、患者様を苦しめている症状の1つが「激しい全身倦怠感」です。この倦怠感は単なる疲れではなく、「筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)」に類似した病態である可能性が報告されています。この倦怠感の管理において、特に重要なのが「ペーシング(Pacing)」と呼ばれる自己管理法です。活動量を調整し、活動後の体調悪化を避けるために有効です。
■ペーシングの実践ポイント
- 活動量の「見える化」と計画:症状が悪化しない「活動の許容範囲」を把握する。体調がよい日でも無理をせず、一日の活動を時間ごとに区切って調整する。例えば、「午前中に○分、午後に○分」など時間を区切って活動し、必ず休憩を挟む
- 「プッシュ・アンド・クラッシュ」の回避:体調がよいときに無理をして活動し(プッシュ)、その後激しい症状の悪化(クラッシュ)に見舞われるパターンを避けるため、意識的に休憩を取る
- こまめな休憩:休憩は単なる休息ではなく、積極的な「回復を促すための行動」と考える。短い休憩をこまめに取ることで、脳と身体のエネルギーを温存する
- 入浴は短時間・ぬるめ:入浴は短時間・ぬるめ。体に負担がかかるため、長時間、あるいは熱い湯温の入浴は控えるよう心掛ける
コロナ後遺症と公的制度・社会的支援
コロナ後遺症のために療養が必要となり、仕事が続けられない場合には、以下のような公的支援の対象となる可能性があります。- 労災保険:業務によって新型コロナウイルスに感染し、後遺症が残った場合には、労災保険給付の対象になることがある
- 健康保険(傷病手当金):私生活で感染し、療養のため就労できない場合には、健康保険制度の被保険者は、要件を満たせば傷病手当金の対象になる。多くの場合、医療機関による申請で審査を通過するケースが一般的。詳細は加入している健康保険組合や自治体に確認するとよい
最後に:一人で抱え込まないことの大切さ
コロナ後遺症による症状は、身体的な問題だけでなく、心の状態、就業・就学・家事といった社会的側面も大きく影響します。決して一人で抱え込まず、医療機関や専門機関、また、自分の信頼できる方に相談してください。
症状と経過には個人差がありますが、多くの方が適切な治療や生活管理を通じて回復しています。不安を感じるときこそ、つながりと正しい情報を頼りにして、一歩ずつ回復の道を歩んでいきましょう。
■参考
・新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)について(神奈川県ホームページ)
・新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A(厚生労働省)
・コロナ後遺症と漢方 その1 コロナ後遺症の症状(漢方ナビ)