大学受験

勉強は「テストで点を取るため」だけのもの?『御上先生』監修者が語る、教育現場と生徒の矛盾

「本質的な読解力を問いたい」と願う真面目な先生。一方で、小手先のテクニックばかりを求める生徒。勉強は「テストで点を取るため」だけのものでしょうか。※サムネイル画像:PIXTA

All About 編集部

もし教育現場が「テストで役立つ勉強のテクニック」ばかりを教え、生徒もそれだけを求めるようになったら……。※画像出典:PIXTA

教育現場が「テストで役立つ勉強のテクニック」ばかりを教え、生徒もそれだけを求めるようになったら……。※画像出典:PIXTA

教育現場が「テストで役立つ勉強のテクニック」ばかりを教え、生徒もそれだけを求めるようになったら……。本当に大切な「考える力」は、どこで育まれるのでしょうか。

学園ドラマは日本の教育をどう変えたか:“熱血先生”から“官僚先生”へ』(西岡壱誠著)では、ドラマや漫画の教育監修をするベストセラー著者が、『金八先生』から『御上先生』まで、歴代の「学園ドラマ」で描かれるテーマとメッセージから、日本の教育と教師像についてお伝えしています。

今回は本書から一部抜粋し、松坂桃李さん主演のドラマ『御上先生』について紹介します。
<目次>

頑張っている先生ほど、否定されがち

ドラマ『御上先生』ではいくつか今の学校教育の矛盾に触れているが、その中の1つに「学校でテクニックを教えるのは正しいのか?」というものがある。

御上先生の同僚となる是枝先生は、国語の先生である。とても真面目に読解力というものと向き合い、期末試験で新しい問題を自作するほどの人だ。

ここで、これがどんな問題だったのかを解説したい。まず、問題は次の通りである。

「問:最後の段落の空欄の中には、この本がどんなコンセプトで作られているのか、どんなことを伝えるための本なのかについてのメッセージが書かれています。文章を読んで、どんなことが書かれているか、160字以内でまとめて答えなさい」

これは、とても特殊な問題である。期末試験の出題としてもかなり異質のものだ。

通常、国語の問題であれば「全体の趣旨を踏まえて、この文章を要約しなさい」という問題を作る。しかしそれでは本当の要約力は身に付かない、と是枝先生は拘(こだわ)っている。

それではただの言い換え問題になってしまう。だから、この問題のような「全体の文章から、結論部分を推測する」という問題を出している。ここまで作らないと、本質的な読解力を見定めることはできないのではないか、ということである。これを御上先生も評価する、という流れである。

しかし、このような先生の頑張りは、学校の中では評価されない。ここまで拘りを持って問題を作っているにも拘(かか)わらず、是枝先生は、学年の先生からは煙たがられている。

どんなに教育の本質と向き合った問題を作っても、「実際の大学の入試問題の形式とは違う」「こんな問題、対策の仕様がない」ということで否定されてしまう。つまり、頑張っている先生ほど、否定されがちになっているのが今の教育業界ということである。

テクニック通りに回答する生徒たち

その上、国語という科目は特にそうなのだが、非常に悲しいことに、生徒たちはテクニックばかりを求めてしまうという傾向がある。例えば第1話のシーンの中で、是枝先生は授業で生徒たちに対してこんな風に話す。

「『しかし』という接続詞の後ろに重要な文がある、というようなテクニックばかりに頼っていると、本当の読解力は身に付きません。安易にテクニックに逃げないようにしましょう」

そんな風に先生が力説しつつも、頭の良い生徒たちは、文章の中の「しかし」や「でも」といった逆説に○をつけている……という、なんとも悲しいシーンであるが、しかしどこの学校現場でもこのような事態は起こっている。

「『しかし』『でも』などの逆説の接続詞の後ろを読めば答えが出る」というのはとても有名な話だが、それ以外にも「古文では、助詞『を・に・が・ど・ば』があったら主語が変わる」というものがある。

これは古文の研究をしている大学の先生に聞くと「まるっきり嘘である」とのことなのだが、多くの古文参考書に書かれてしまっているほどポピュラーになっている。

勉強は「テストのため」「いい大学に入るため」のものに

このドラマを作るにあたって、さまざまなエリート学校の先生に取材をした。その際、駒場東邦中学校・高等学校の小原広行先生という国語の先生とも話をしたのだが、そこで先生はこんなことを言っていた。

「漢文でも、どこから仕入れてきたのか、『道徳的なものが正解になりやすく、道徳的に間違っている選択肢は不正解になりやすい』というテクニックを信奉している生徒はとても多い。中学受験を突破するために小さい時から何年も塾に通っている生徒が大半だから、こうしたテクニックばかりを使ってしまうのだろう」

先生の話をまとめると、現場でもこういった問題が発生しているということであり、またその原因になっているのは、「中学受験を突破するために小さい時から何年も塾に通っている生徒が大半になっている状況」だということである。

ここまでの流れを整理すると、多くの学生たち、とりわけいい大学に入って将来「エリート」と呼ばれる人たちにとって、勉強とは「テストでいい点数を取るためにあるもの」としてしか受け取られなくなってしまっている、ということが大きな問題だということである。

「そもそもなんのために勉強しなければならないか」が抜け落ちていて、テストのための勉強・いい大学に入るための勉強が先行してしまっているのが今の学校教育の現状なのではないか、と。このドラマで描いていたのは、そういった教育の矛盾だったと言える。
  西岡壱誠(にしおか いっせい)プロフィール
東大生、株式会社カルペ・ディエム代表、日曜劇場『ドラゴン桜』監修。1996年生まれ。偏差値35から東大を目指し、3年目に合格を果たす。在学中の2020年に株式会社カルペ・ディエムを設立、代表に就任。全国の高校で「リアルドラゴン桜プロジェクト」を実施し、高校生に思考法・勉強法を教えているほか、教師には指導法のコンサルティングを行っている。テレビ番組『100%!アピールちゃん』(TBS系)では、タレントの小倉優子氏の早稲田大学受験をサポート。また、YouTubeチャンネル「スマホ学園」を運営し、約1万人の登録者に勉強の楽しさを伝えている。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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