大学受験

2年目は難化だった「共通テスト」、3年目はどうなる?試作問題を解いた塾講師が傾向を考察

3回目を迎える「大学入学共通テスト」。2025年からは「情報」も必須となり、どの教科・科目も分量が多く時間が足りないため、速く正確に解く情報処理能力が問われています。試作問題を解いてみて、傾向と対策を考えてみました。

伊藤 敏雄

執筆者:伊藤 敏雄

学習・受験ガイド

昨年は数学IAで平均点が30点台となるなど、問題の難化により波乱となった「大学入学共通テスト」(以下「共通テスト」)。今年で3回目を迎え、これからの大学入試を占う上で試金石となる、まさに正念場。果たして、三度目の正直となるのでしょうか。
 
そこで、これまでの共通テストの問題に加えて、2025年から実施される新課程の試作問題の中から「歴史総合・世界史探究」「情報I」「情報I(参考問題)」「数IA」「数IIBC」を解いてみて、傾向と対策を考えてみました。
 

共通テストの問題は3パターンにわけられる

共通テストの問題パターンは、大きく次の3つにわけられると考えられます。

A:語句の知識や公式・解法だけで解ける問題
B:問題文中にヒントがあり、よく読めば答えがわかる問題
C:資料を読み比べないと解けない問題
 
1つ目は、重要語句や公式・解法などの知識や技能だけで解ける問題です。これは大学入試センター試験のときと大差はありません。
 
2つ目は、問題文中にヒントがあり、よく読めば答えがわかる問題です。これはセンター試験にはあまり見られなかった傾向です。よくいえば、丸暗記が前提の細かい知識を必要としない問題ですが、悪くいえば問題文に答えが書いてある、いわば“ウォーリーを探せ問題”とも捉えられます。
 
3つ目は、問題文だけでなく複数の資料(対話文、図、表、メモなど)を読み比べないと解けない問題です。これが共通テスト独特の新傾向といえ、「思考力を問う」とされている共通テストの売りのひとつとされています。しかし実際、過去2回の共通テストと試作問題を解いてみた感想は、一言でいうならば“煩雑”ということです。
 

知識も技能も速読力も問われるやっかいな共通テスト

もう少し具体的にみてみましょう。まずは、パターンAの問題例として、試作問題「歴史総合・世界史探究」第1問の問4があります。これはフランスを除く三国協商を構成した国を答える問題で、単純にイギリス、ロシアという知識がないと解けません。先生と生徒がナショナリズムについて会話をしている場面が設定されていますが、この問題では読み飛ばしても答えられるようになっています。
 
また第3問の問2は、宋と高麗の間の地域を支配していた民族について、「スキタイ」「フラグ(フレグ)の遠征」「契丹」「西夏」のいずれかを問う問題で、従来通り細かい知識が要求されるタイプといえます。
2027年度大学入学共通テストの試作問題「歴史総合・世界史探究」の第2問の問2より。解答につながるヒントが資料中に書かれている。

2025年度大学入学共通テストの試作問題「歴史総合・世界史探究」の第2問の問2より。解答につながるヒントが資料中に書かれている。

次に、パターンBの問題例として、第2問の問2があります。これは清代の北京の様子(紫禁城周辺の居住区域)についての地図と資料を見比べて、居住している区域にあてはまる人々とその理由を答える問題です。「資料中の『韃靼人』は、清を建てた民族を指していると思われる。』という注釈がメモ2に書いてあるため、これを読めば紫禁城周辺は「韃靼人」、その他の区域は「漢人」ということが推測できます。
 
また理由についても、清を建国した「韃靼人」が自国の民族を城の近くに住まわせるのは理にかなっているため、文脈にそって考えれば世界史の知識がそれほどなくても解ける問題といえるでしょう。
 
最後に、パターンCの問題例として、第2問の問4があります。大連の都市計画について、2人の生徒の分類の仕方として適切なものを選ぶ問題ですが、それまでの問1~3を踏まえ、第2問全体を通して問われていることを考えて答えなければいけません。問題冊子を何ページもめくりながら、再度確認をしなければならないため、正直大変です。
 

よくいえば教科横断型ともいえるが……

パターンCの出題傾向は、他の教科にも見られます。例えば「数学IA」の第2問[1]の陸上競技の短距離走(ストライドとピッチの関係)について答える問題です。複数ページにまたがって問題文を読みながら、解かなければならないのです。問題自体は大半が一次関数の問題で、中学生でも解けるレベルなのですが、最後の問題だけが二次関数の知識や計算技能が問われます。
 
確かに、過剰なまでの知識や技能は問われないかもしれませんが、タイムが最もよくなるピッチを答える問題なら、スポーツ科学部など学部レベルで個別に問うようにしてほしいと感じるような問題です。共通テストというみんなが受ける問題として適切かどうかは、正直、賛否両論あるのではないでしょうか。
 
また、「情報I(参考問題)」の第4問(参考)は、エアコンとアイスの売上データを取り上げ、グラフや資料を読み取り、設問に答える問題となっています。これは情報という教科の知識や技能が問われるというよりは、丁寧に問題文や資料を読み解けばわかる、読解力の問題という印象です。
 
「公共」の第2問の問2では相関係数を扱っていて、現金給付と現物給付について考える問題が出題されています。「数学」でも「情報」でもない教科で相関係数に関する問題が出題されるとなると、正直面くらう受験生は少なくないのではないでしょうか。
 
このように教科の垣根がない問題が際限なく出題されるとなると、正直どうやって対策を立てたらいいかわからず、困惑する受験生が増えると思います。

一方で「数学IIBC」では、パターンCに相当するような問題は少なく、従来のセンター試験とほぼ同様の問題でした。おそらく過去2回で大いに批判をあび、日常場面を想定した問題を出すことをためらったためではないかと推測されます。あるいは、数学は日常場面と結びつけた問題を作成するのが難しいためとも考えられます。実際、「数IA」の試作問題の大半が、実は令和3年に実施された第1回の問題となっています。
 
それでも、「公共」で相関係数が取り上げられ、「数学」でも「情報」でもデータの扱いが増えたのは新傾向の特徴です。問題文はもちろんですが図表やメモなどの資料を速く、正確に読めるようにしておくことが必要です。
 

とにかく時間が足りない共通テスト対策は……

このように共通テストでもセンター試験と同様に、教科の知識や技能も問われます。しかし、過去2回、受験生の感想に共通しているのが「とにかく時間が足りない」ということ。問題量の増加は誰の目にも明らかです。

まず、今まで同様、教科の知識や技能を共通テストレベルにまで高める必要があります。次に、問題文や資料を読み比べながら、速く正確に読む力を身につける必要があります。
 
日常場面と結びつけた問題の中には、設問には直接関係しない、先生と生徒の対話など、正直、読み飛ばしてもよい部分もあります。しかし、問題によっては対話の中に解答につながるヒントがあったり、文脈にそった選択肢を選ばないと誤答につながったりする問題もあるのです。
 
特に「歴史総合・世界史探究」や「公共、政治・経済」では、問題冊子が40ページ以上もあり、これを60分間で解かなければなりません。1ページあたり2分も時間を割けないため、問題文や資料などから必要な情報を取捨選択し、解答を吟味する速読力や情報処理能力が問われます。
 
つまり、教科の知識・技能はもちろんのこと、「速読力」や「情報処理能力」を高めることが特に重要な対策となります。今回、国語や英語、理科の傾向については紹介できませんでしたが、新傾向に慣れるという小手先の対策ではなく、問われている力がセンター試験とは根本的に異なるということを理解しておく必要があります。
 
第3回を迎えた今、試作問題もそろったところで、過去問や予想問題などを解いて、必要な対策で備えるようにしましょう。
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