子供の教育

なぜ、全然言うことを聞かない「荒れたクラス」は変わったのか? 元教員が明かす、学級再生の秘密

荒れたクラスを音楽とコーチングで見事に変えた元教員・井上敬史さんの経験と、新たな道のりをご紹介。子どもたちの自己肯定感を高め、学級経営を好転させたその秘密に迫ります。

坂田 聖一郎

坂田 聖一郎

子育て・教育 ガイド

大学卒業後、芸人を目指し現在「しずる」村上純とコンビ結成するも解散。その後、教員を13年間経験。独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングを」をスローガンのもと、「ままためコーチング塾」をスタート。子育てや家事で忙しいお母さんや教員にも親しみやすい丁寧な指導が好評。

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「学校教育にコーチングを」。このスローガンのもと、私は教員や教育関係者向けのコーチング塾を運営しています。

今回は、私の塾生でもある元教員の井上敬史さん(現:合同会社LyricFlow 代表)の実践事例とキャリアをご紹介します。

学校の現場では、スムーズなクラス運営のため、どうしても教師からの一方通行である「ティーチング」が中心になりがちです。しかし井上さんは、そんな中で質問や対話をとりいれた支援型の指導法であるコーチングを取り入れ、音楽の力を借りて荒れたクラスを劇的に変えました。子どもたちの自己肯定感を高め、学級経営を大きく好転させたのです。

この記事では、なぜ学校教育にコーチングが欠かせないのか、そして実際に教室でどう実践したのか、さらに現在のセカンドキャリアについて、井上さん自身の言葉でお話しいただきます。

きっと、子どもの自己肯定感を育みたい保護者の皆さん、そして学級経営や自身のキャリアに悩む先生方の参考になるはずです。
井上敬史さん

荒れたクラスを改善した経験を持つ、元教員の井上敬史さん

<目次>

「聞いてもらえない場所」がもたらす自己肯定感の低下

私は、小中学校で音楽の教員として12年間教壇に立ちました。その中で、「全然言うことを聞かない」「授業中も関係ないことをしている」といった、いわゆる“荒れたクラス”を担当した経験があります。

最初に子どもたちと顔を合わせたとき、そこは授業を受ける環境ではないと感じました。子どもたちは「どうせ先生は話を聞いてくれない」「自分たちはいつも怒られるからダメなんだ」といった思い込みに縛られ、何よりも自己肯定感が低い状態でした。

そこで私は、まず授業を受ける土台作りから始めました。授業中ではなく、休み時間や放課後に一人ひとりと向き合い、「困りごと」や「やってみたいこと」を丁寧に聞き取ることにしたのです。

最初は何も話してくれなかった子も、時間をかけて対話を重ねるうちに、今まで口にできなかった思いを少しずつ打ち明けてくれるようになりました。そうやって心を開いてもらうことで、「先生は自分の話を聞いてくれるんだ」という信頼が生まれ、そこが学級経営の出発点となりました。
音楽の教室

音楽の教室 

一人ひとりが主役! 音楽×コーチングで育んだ「できる」自信

音楽のような実技教科は、他の教科と違い、ただ座って先生の説明を聞くだけでは成り立ちません。子どもたち自身が積極的に参加してこそ、授業は動き出します。音楽の場合、たった一人でも歌わない子がいたりすると、「歌っていない子がいるから自分も……」という連鎖が生まれ、クラス全体の意欲に影響を与えてしまうのです。

だからこそ、「音楽が嫌い」という子にも必ず声をかけ、「なぜ嫌いなのか」を丁寧に聞くことを心がけました。「声が出ないから嫌い」という悩みには、発声のコツを伝え、「まずはここだけ真似してみよう」とハードルを下げました。そうやって少しずつ成功体験を積ませることで、「自分にもできるかもしれない」という見通しを持たせるように促したのです。

教師には、苦手な子やできない子にも目を向け、彼らが“小さくても輝く”瞬間を演出する役割があります。例えば、リコーダーが苦手な子がきれいに吹けた瞬間をクラス全体で称えたり、声が出にくい子には「こうやると声が響くよ」と具体的なコツを示したり。小さな達成を重ねるうちに、これまで自信を持てなかった子も自然と主体的に動き出すようになりました。

そして、子どもたちの“できているところ”に焦点を当て、必ず褒めることを徹底し、クラス全員で「この子のここがすごい」とよい点を共有するうちに、他者を罵倒したりいじめたりする言葉は次第に消えていきました。教室は落ち着きを取り戻し、最終的には、何か問題が起きても「先生が言わなくても、自分たちでどうすればよいかを考え、行動する」クラスへと変化したのです。
音楽教室の様子

井上敬史さんが開催している音楽教室

自分の苦手や弱さを、「強み」に変える

私は3歳の頃からピアノを習っていましたが、カリキュラムに沿った練習がとても苦手でした。

そんな私を救ってくれたのが、決まった練習とは別に、好きな曲を自由に弾かせてくれた先生です。そのときの「楽しい!」という感覚は、今でも覚えています。

また私は、プレッシャーに弱いタイプでもありました。ピアノの試験本番では手が震え、暗譜が飛んで演奏が止まってしまうこともしばしば。コンクールの伴奏では、周りが涼しい顔で演奏する中、私だけがひどく緊張し、後で録音を聞いては「もっとこうすれば……」と悔しさに打ちひしがれたものです。

しかし、これらの苦い経験が、今では私にとってかけがえのない強みとなりました。プレッシャーに弱い自分だからこそ、「できない」と悩む子どもたちの気持ちが手に取るように分かるのです。

子どもたちの可能性は無限大だと心から信じ、彼らのほんの小さな“できた”という輝きも決して見逃さず、心から称賛できるのです。

学校という枠を超えた多様な音を楽しむ場づくり

ここからは、私のセカンドキャリアへの挑戦についてお話しさせてください。

私が音楽の先生になったのは、ピアノを習っていたからという理由だけでなく、音楽で心が震える経験をしたからです。

高校のときに初めて観に行ったオペラのコンサートで、深い感動を覚えました。ところがそのとき、あまり客席が埋まっておらず、残念に感じるとともに、音楽の素晴らしさが世間にはまだ十分に伝わっていないのかもしれない、と感じたのです。

そういった原体験もあり、“音楽を誰もが楽しめる場”を作りたいという自分自身のビジョンが見えてきたとき、学校での正規教員としての働き方に違和感を覚えるようになりました。

そこから、学校という枠にとらわれずに音楽のよさを広げていくために、今年の3月に正規教員を辞め、非常勤講師として子どもたちに音楽の授業をしながら、現在はさまざまな活動に取り組んでいます。

例えば、子ども向けの音楽教室を主宰したり、音楽教室を開業したいという方へのサポート、また現役の音楽の先生方への授業づくりのアドバイスやメンタルサポートなども行っています。さらに、地域の演奏会に呼ばれ、私自身が演奏することもあります。

学校教育では難しいと感じていた、「徹底的な個別サポートを提供できること」が自分のスタイルだと実感しています。私が関わることで、子どもも大人も自信を持って音楽を楽しめる社会を築いていきたいと考えています。
音楽教室の様子

音楽教室の様子 

筆者コメント:コーチングが拓く、教員のセカンドキャリアの可能性

井上さんの学級経営からは、コーチングの真髄とも言える「傾聴」と「小さな成功体験の積み重ね」が鮮やかに見て取れます。自己肯定感が低い子どもほど、丁寧に耳を傾け、「できた!」を共に喜ぶことが、学びの原動力になります。

筆者が主宰するコーチング塾の現役教員の中にも、クラス運営にコーチングを取り入れたいという方が多く、実際に挑戦したという声もたくさん聞こえてきます。

日々の業務に追われる先生方にとって、コーチングの実践は決して簡単ではないかもしれません。私自身も、現役時代は「学校でコーチングを実践するのは無理だ」と思い込んでいました。

しかし、何よりも大切なのは、子どもたちの考えていることを知りたい、聴きたいという純粋な気持ちです。そして、大人の「こうあるべき」という枠に当てはめるのではなく、子どもたちの話をジャッジせずに受け止めること。これこそが、信頼関係を築く上で欠かせない土台となります。こうした先生の関わりが、子どもたちの自信につながり、新たな挑戦への一歩を後押しします。

また、新たなキャリアを歩み始めた井上さんの姿は、教員としての経験が、学校という枠を超えていかに社会に貢献できるかを示しています。音楽を通じて子どもたちだけでなく大人へも価値を提供し、ご自身の自己実現を果たしながら、社会からより一層必要とされる存在になっていると感じます。

今回の事例が、クラス運営やキャリアに悩む先生方、そしてお子さんの自己肯定感を育みたい保護者の皆さんにとって、前向きな変化のきっかけとなれば幸いです。
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