
「内科」と「外科」はどう違う? 日本語で内科と外科が定着した意外な由来は? ※画像:Shutterstock.com
体調不良やけがで病院に行くとき、まずは「内科」や「外科」で診てもらうと思います。現在の「内科」は、問診や触診、各種検査を通して病気を診断し、主に薬物療法で治療を行う分野です。さらに対象となる臓器に応じて、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科などに細分化されています。一方「外科」では、手術による治療を中心としています。
しかしよく考えてみると、体の外から患者さんを診て治療にあたる方が「内科」、手術をして体の内側の悪い部分を切除したりする方が「外科」と呼ばれるのは、少し不思議ですね。
実は「内科」と「外科」という呼び方には、今の私たちが持つイメージとはまったく別の由来があるのです。
医学史から見た「内科」と「外科」の成り立ち
「内科」「外科」は、そもそもどうやってできた分類なのでしょうか? 医学の歴史をたどると、患者の症状や外から見える体の変化から病気を診断し、薬で治療する方法(=現在の内科的治療)の方が古くからありました。つまり「内科」が本流です。最古の外科手術はいつ行われたかについては、諸説あります。2022年には、インドネシアで見つかった約3万年前の旧石器時代の人の骨の分析が行われ、この人物が左足を切断する外科手術を受けていた可能性が高いという報道もありました。また、ヨーロッパのルネサンス期には理髪師が小さな手術を行っていました。理髪店の店頭にある赤・白・青のサインポールは、赤が動脈血、青が静脈血、白が白衣を表しており、理髪師が外科的処置を担った名残です。
しかし、それらの古い手術は、場合によっては除痛を考慮せず非人道的なものもあったに違いありません。今のような安全な手術が可能になったのは、安定した麻酔法が発見・改良されてからと思われます。その観点からすると、今の「外科」に相当する医学の独立した分野ができたのは19世紀になってからでしょう(※古くから薬草などを用いて全身麻酔が試みされてきましたが、十分ではありませんでした)。
日本における「内科」「外科」の呼び名は? 「外科」の誕生とその意外な意味
諸説ありますが、日本で「内科」「外科」という呼び名が広く使われるようになったのは、江戸時代という説が有力です。漢語の「外科」という言葉が『太平記』で初めて用いられ、室町時代になってから広まったという説もありますが、上述したように、今のような手術が行われていたわけではないので、私は違うと考えています。江戸時代の日本では、漢方薬を使った東洋医学が主流で、東洋医学を主に扱う医師は「漢方医」と呼ばれていました。やがて、オランダから西洋医学が伝わり、外科手術を行う「蘭方医」が登場します。
しかし、漢方医たちは「人体にメスを入れて傷つけるなど医学ではない。邪道だ」と批判し、外科を「医学の外れもの」と位置付けたのです。ここから「外科」という呼び名が生まれたとされています。
日本語には「内道(ないどう)」に対して「外道(げどう)」という表現がありますが、「内科」と「外科」にも、当初はそのようなニュアンスが込められていたとは驚きですね。
現代では、「内科」も「外科」も、医学を支える両輪として、私たちにとってはどちらも頼りになる欠かせない存在になっています。