脳科学・脳の健康

毎日幸せを感じるのは難しい? 脳科学から考える「幸福感」

【脳科学者が解説】幸福感にかかわる脳内神経伝達物質「セロトニン」は、少な過ぎても多過ぎてもよくありません。変化の多い毎日の中で、いつも幸せを感じ続けることは可能なのか、脳科学的に考えてみましょう。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

幸せそうな人

幸福感を持ち続けるのは難しい? 脳科学的に見る「幸福感」とは


幸福感を覚えるのは、どのようなときでしょうか? 体が健康なら常に幸福感があるかというと、そうではありませんし、経済的に裕福なら常に幸福かというと、やはりそうともいえません。体が健康でも、深刻な悩みや漠然とした不安があったり、大金を手にしていても「まだまだ足りない」と不満に思っていれば、本人にとっては幸せとはいえないでしょう。

「幸せ」は、心理学では「well-being(ウェルビーイング)」とも呼ばれ、よい状態がずっと続いていることを意味します。国語辞典では「満ち足りていること。不平や不満がなく、たのしいこと。また、そのさま」と定義されています。つまり幸せとは、「その人にとって不満がなく、望ましい状態」を指すもののようです。究極の幸せは、どのような状態もそのまま受け入れ、変化を求めないことともいえます。「変わらなくていい」と思えることは、現状で満ち足りていることの証だからです。

今回は脳科学の視点から幸福感について考え、より多く幸せを感じることは可能なのかを考えてみましょう。
 

幸福感を生み出す神経伝達物質「セロトニン」

脳の中ではさまざまな神経伝達物質が働いています。その中で、「幸福感」に関係するものの1つが「セロトニン」です。

セロトニンは、意欲ややる気など、気持ちを高める役割がある神経伝達物質です。分泌が不足すると、うつ状態になってしまいますが、分泌が多いほど幸福感が高まるかというと、そうではありません。セロトニンの分泌が過剰になると、不安状態になってしまいます。そのため分泌が過剰な場合は、セロトニンの分泌を抑える薬で不安感を和らげることになります。

つまり、セロトニンは少なくても多くてもよくなく、常に適量が保たれることが大切なのです。適量のセロトニンが分泌されていれば、心の状態は一定に保たれ、穏やかな幸福感を持ち続けられます。
 

幸福感を覚え続けることは難しい? 考えて工夫し、目指すことは可能!

一方で、セロトニンの分泌量を私たち自身がコントロールすることは、現実的には難しいことです。

そしてまた、私たちは常に環境の変化にさらされています。天候が暑かったり寒かったり、食事がおいしかったりまずかったり、また、他者との関係の中では、何かしらの快・不快の刺激や影響を受けるものです。それらの刺激を受けながら、ずっと変わらず穏やかで幸福感を持ち続けることは、なかなかできません。幸福感を覚え続けるのは、現実には不可能に思えます。

しかし、私たちの脳にはセロトニンだけでなく、「考える力」があります。それを担っているのは、進化の過程で人間が大きく発達させた「前頭前野」です。自分の言動や思考を振り返って、よりよく修正することで、「変化を求めずに、満ち足りた状態を目指す」ことができるのも、私たち人間だけです。こう考えると、私たち人間はみんな「幸せになれる力を持っている」といえるかもしれません。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※当サイトにおける医師・医療従事者等による情報の提供は、診断・治療行為ではありません。診断・治療を必要とする方は、適切な医療機関での受診をおすすめいたします。記事内容は執筆者個人の見解によるものであり、全ての方への有効性を保証するものではありません。当サイトで提供する情報に基づいて被ったいかなる損害についても、当社、各ガイド、その他当社と契約した情報提供者は一切の責任を負いかねます。
免責事項

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます