『中学受験 親がやるべきサポート大全』(著:菊池洋匡、刊:SBクリエイティブ)では、中学受験を単なる試験突破の手段として捉えるのではなく、親子で共に成長し、豊かな人生を築くためのプロセスと考える視点をお伝えしています。
やる気がないように見えるわが子につい「そんなことなら塾をやめなさい!」と言ってしまいそうになりますが、この言葉は中学受験をさせるうえで禁句です。今回は本書から一部抜粋し、その理由を解説します。
Q:なぜ「そんなことなら塾をやめなさい!」と言ってしまうのか?
✕:ダラダラしていると「やる気がないなら塾をやめなさい!」と言ってしまう。「うん、やめる!」と言われて親が右往左往するか、本当にやめてしまうか、子どもが悲しい思いをしながら塾に通い続けるか、の3択になりがち。
〇:子どもの「やる気のなさ」の理由を具体的に考え、解決できるようアプローチする。
親が脅さなくても、子どもを勉強に向かわせることができる。
親が思ったようには宿題を全然やらないわが子に「そんなことなら塾をやめさせるよ!」と言ったことはありませんか? このセリフを言うとき「本当に塾をやめさせたい」と思って発言しているケースはほとんどないでしょう。いや、頭に血が上っていて、その瞬間は本気ですが、冷静になると後悔することならありそうですね。
このセリフは、「子どもに真剣に勉強してほしい」という思いから出ている言葉だと思いますが、ほとんどの子どもにとっては脅迫されているのと同じです。
「受験はしたい。勉強したほうがいいのもわかっている。それでも、他にやりたいことがあったり、誘惑に勝てなかったりして、なかなか勉強に取り組めない」――受験生のほとんどは、そんな葛藤を抱えている子です。その葛藤にあれやこれやと手を打って、自分の力で勉強できるようにしていくからこそ、中学受験が終わっても成長していけるのです。
葛藤を抱えている子に必要なのは脅しなのでしょうか? しかも「塾をやめろ」というのは、いきなり核ミサイルを発射するレベルの最後の一手です。
結果として、子どもは勉強するようになるかもしれませんが、脅されて取り組んでいるだけで持続性のないものです。親御さんが望んでいる姿ではないでしょう。
軽々しく「最後通牒」を出しても親の面子が損なわれるだけ
「次の試験で、偏差値○○以上取れなかったら塾をやめさせる」。こういった脅しもしばしば聞くことがあります。もしかしたら、脅された結果、なんとか心を入れ替えて、真剣に学習するようになるかもしれません。しかし、偏差値は他者との比較なので、学習した成果がそのまま表れるわけではありません。それで、目標の偏差値に届かなかったら、本当に塾をやめさせますか? 学習に取り組む姿勢が改善したから、前言を撤回して塾を続けさせますか? 前言を撤回すれば、約束を破ったことになります。
このセリフを使った多くの親御さんは、「本当はやめてほしくないのに、つい言ってしまって……」「結局、続けることになりました」という道をたどります。その結果として残るのは、「親の判断や決断は重いように見えるものでも、揺らぐらしい」「結局は機嫌だ」「約束は変わるものだ」という、本来、与えたくはないようなメッセージが伝わったという事実だけです。
「偏差値○○に届かなかったら塾をやめさせる」と言って、そのセリフがハッピーエンドに結びつくことはないと思ってください。
状況を変えるには背景を知って困っているわが子を応援する
「中学受験する」といって始めたはずなのに、子どもがちっとも勉強しないのでイライラする――これ自体は、よくあることです。ただし、この状況がなぜ生まれているのかは子どもによってまちまちです。・子どもに勉強する気はあって、机には一度向かった。でも、問題が難しくて解けないので、やる気がなくなってしまった。
・子どもに勉強する気はあって、計画も立てた。読書のあとで勉強するつもりだったけど、つい時間を忘れて、読書に没頭してしまった。
・勉強する気が子どもにそもそも起きていない。勉強しても中学受験で合格する気がしない。
「ちっとも勉強しない」という目の前の事実だけを見て、いきなり「やる気が全然ない」と判断するのではなく、どんな理由から「ちっとも勉強しない」という事実が起きているのか、お子さんと一緒に深掘りしてみてください。原因がわからなければ、解決策を見出せません。
逆に原因がわかれば、そこに手を打つことで、脅さなくても状況を改善できます。マイナスの声掛けをすれば、相手はマイナスになっていき、プラスの声掛けをすれば相手もプラスになっていきます。前向きな声掛けを増やせるようにしていきましょう。
菊池洋匡 プロフィール
中学受験専門塾 伸学会代表。
10年間の講師歴を経て、2014年に自由が丘校を開校し、現在は目黒校・中野校を合わせて3校舎を運営。