これは多くの親御さんに共通する願いではないでしょうか。その願いを実現するために、小さい頃から習い事に通わせ、先取り学習をさせるご家庭も多くあります。私がこれまで教えてきた生徒の中にも、そういう子はたくさんいました。 その子たちの中には、受験勉強を始めたばかりの小学校3~4年生くらいの頃には成績優秀だったのに、5年生6年生と学年が上がるにつれて失速し、成績が下がっていく子たちがいました。逆に、先取り学習などはしておらず、4年生の頃はそれほど成績が良かったわけではないのに、5年生6年生とぐんぐん伸びていく子もいました。
さらには、中学受験を終えた後に中高で頭打ちになってしまう子、伸びていく子の違いも見てきました。そうした経験を踏まえて「あと伸びする子」の育て方を親御さんたちにお伝えしたいと思っています。
この記事でお伝えしたいことは3つあります。
当てはまっていたら注意! 「あと伸び」を意識しないと将来勉強しない子に
1つ目は、「あと伸び」を意識することの大事さです。これは「長期的視点に立つ」と言い換えることもできます。例えば子どもに勉強をさせようと思ったときに、短期的な視点で見れば「怒る」ことは簡単かつ効果的な手段です。でも、そうしたお手軽な方法で宿題をやらせ続ければ、子どもは勉強が嫌いになり「怒られなければ勉強しない子」になります。そしていずれは「怒られても勉強しない子」に……。長期的な視点で見たら、それは良い手段ではありません。
また、試験で良い成績を取らせてあげたいと思ったときにも、短期的な視点で見たときには効果的な方法が、長期的にも良い方法とは限りません。次のテストに向けて必死に頑張る一方で、終わったテストの復習がそっちのけといった勉強法をしていると、目先の点数は少し上がるかもしれませんが、長期的に見れば成績は下がります。
忙しくて時間がない親御さんほど、長期的に見て効率の良いサポートをしなければいけないはず。しかし、人間はどうしても目先のことに目がいってしまうものです。「近くにあると大きく見える」というのは、モノだけでなくコトでも同じです。「遠くにある子どもの将来の幸せ」よりも、「近くにある受験」の方に、そしてそれ以上に「さらに近くにあるテストの結果」の方に意識が向くのは人として自然なことです。そのせいで、長期的に見ると効率の悪い方法、あるいは効率が悪いどころかマイナスの影響がある方法を選んでしまったりします。
そうならないようにするためには「あと伸び」という意識を持っておくことが大切です。
「あと伸び」を意識すれば、例えば先取り学習にも、良いものと悪いものがあることが分かるようになるでしょう。あと伸びする子の特徴を簡単にまとめると、「勉強が好き」なことと、「地頭が良い」ことです。「地頭」については後述するので、ここでは「勉強が好き」になるかどうかという視点から考えます。
勉強嫌いになってしまう最もありがちな理由の1つは「勉強できないから」です。学校や塾などではどうしても他者比較にさらされますから、その中で他の子よりもできないと、「恥ずかしさ」「悔しさ」「劣等感」といったネガティブな感情を持ちやすく、その結果、勉強が嫌いになってしまうのです。そうならないようにするための方法として、先取り学習は効果的です。先に勉強しておいて「できる」状態からスタートすると、気分良く勉強できて、勉強好きになってくれる可能性が高まります。
しかし、親御さんの中には「できる」ようにさせることに意識が向いてしまって、子どもを叱りながら無理やり勉強させてしまう方がいらっしゃいます。叱られることで勉強に対してネガティブな感情を持ち、そして「やりたくない」とぐずって叱られ、ますますネガティブな感情を抱く。そうして先取り学習をやらされた結果、すっかり勉強嫌いになってしまった子たちをこれまで何十人も見てきました。確かに、その瞬間だけを見れば年齢・学年相当よりも先に進んでいて、他の子よりもできるのです。しかし、そういう子たちは、例外なく成長が遅く他の子たちに追い抜かれていきました。
「あと伸び」とは逆の、「頭打ち」になってしまったのです。「あと伸び」という意識を持っていたら、そしてそのためにはどのような働きかけを子どもにするべきかを考えていたら、避けられた結果なのではないかと思います。
先取り学習に限らず、「あと伸び」という意識を持つかどうかで、同じようなことをしていても真逆の結果になることがさまざまあります。
IQが高い、勉強のセンスがある…「地頭が良い」とは?
2つ目は「地頭」を育てる大切さです。「地頭が良い子」という言葉は、「知識がある子」という意味での「頭が良い人」との対比で、「才能がある子」「勉強のセンスがある子」という意味で使われることが多いと思います。中学校から高校にかけて、真面目に数学を勉強してもまったく理解できなかったという経験をしたことがある人は多いと思います。もしかしたら中学受験で頑張っても、算数ができないという経験をされているかもしれません。良い成績を取るためには、ある程度の「地頭の良さ」が求められます。
でも、「じゃあ地頭を鍛えよう」と思っても、そもそも「地頭とは何か」が具体的でないと、どうやって鍛えたらよいかも分からないのではないでしょうか。例えば、「足を速くしたい」と子どもに言われても、それが短距離走か長距離走か具体的でなければ、どのようなトレーニングをさせてあげればよいのか分かりませんよね。「とにかく走れ!」では効率が悪くなります。それと同じように、地頭を良くしたいと思ったときに、「とにかく頭を使え」では高い効果は望めません。
そこでまずは「地頭」について具体化をしようと思います。
「地頭」には「コミュニケーション能力」なども含める場合がありますが、ここでは勉強の成績に直結する能力という意味で「IQ」と定義します。IQは、小学生だと「WISC」という検査で測るのが最もメジャーで、最新版のWISC-5では5つの下位項目に分かれています。その5つは、「言語理解指標(VCI)」「視空間指標(VSI)」「流動性推理指標(FRI)」「ワーキングメモリー指標(WMI)」「処理速度指標(PSI)」です。
それぞれ分かりやすく説明すると、「言語理解」は、その名の通り言語的知的能力です。国語はもちろん、他教科も含めた教科学習の基礎となります。語彙力が豊富な子は、将来的に成績が良くなることも示されています。
「視空間」は、平面図形・立体図形の認識力で、私の著書やYouTubeの中ではよく「空間認識力」と表現しています。算数・数学の非言語的な図形問題を解くための基礎となります。それだけでなく、大きさや割合といった、数値的な概念を理解するための基礎ともなっているのではないかと近年の研究で示唆されています。
「流動性推理」は、規則性・法則性をつかむ力です。論理的思考、抽象的推論、仮説検証といった能力が含まれます。特に算数・国語で良い成績を取るためには不可欠ですし、理科・社会においても、近年増えている知識の暗記ではなく、情報を読み取って答えるタイプの問題を解くためには重要となる力です。
「ワーキングメモリ」は、短期的な記憶された情報の維持と操作に関わっています。複雑な算数の問題を解き、長文の読解をするために欠かせない能力です。それだけではなく、集中力、注意力の持続、衝動の制御など、さまざまな認知的操作を支えるとても重要な役割も担っています。
「処理速度」は、その名の通り情報を素早く処理する能力です。この能力が高い子が、「頭の回転が速い子」です。テストのときにも家で勉強をするときにも時間的な制約が付きまといますから、処理速度が高い子は有利です。
これらを地頭と考えて、伸ばすための方法を実践していくとよいのではないでしょうか。「足の速さ」は持って生まれた遺伝的な要素も大きいですが、一方でトレーニングをすれば鍛えられるものです。それと同じように、地頭も遺伝的要素も大きいですが、鍛えていくことが可能です。ご家庭でできる地頭作りに取り組んでいきましょう。
地頭は“遊びながら、楽しみながら”伸ばそう!
3つ目は、地頭を伸ばすために「遊び」を活用しようということです。人間の能力は、簡単にできることをしていても伸びません。自分の限界に挑むチャレンジが必要です。でも、限界に挑むチャレンジは、多くの場合苦痛も伴います。しかも、1回チャレンジするだけではダメで、継続していく必要があります。
1日ハードに筋トレをして激しく筋肉痛になっても、急にマッチョになったりはしません。地頭作りも同じです。限界に挑む大変なチャレンジを乗り越え、それを継続する必要があります。
そのためには強力なモチベーションが必要です。子どもにとって、そのモチベーションとして最強なものが「遊び」です。なぜなら「楽しいから」です。勉強だと難しい問題をすぐ投げ出す子が、ゲームだとクリアできないステージにねばり強く何度もチャレンジしたりしますよね。
このエネルギーを活用し、遊びながら気付いたら賢くなっている状態に導きましょう。