夫が病に倒れて自費診療を妻が支払うことに
そんな夫が3年ほど前、脳出血で倒れた。幸い一命はとりとめたが、そこからアヤカさんの苦労が始まった。「夫は結構、後遺症が残ってしまって。リハビリ病院に入院していた時期もあるし、自宅療養の際も、毎日のように近所のリハビリクリニックに訪問してもらっていました。これは保険適用外だったんですが、夫がどうしてもやりたいというので」
病に倒れた夫に「自分の貯金から払ってね」とは言いづらく、アヤカさんはまたも自分の預金を崩した。それでも高額のリハビリを始めて半年ほどで夫はかなり回復、杖をついてゆっくり歩けるようにはなった。
その当時はコロナ禍で、夫の職場も在宅勤務が可能になった。夫は早く仕事に復帰したいと希望を伝えたが、会社側は退職を匂わせたという。
「夫は給与が下がってもいいと粘ったんです。それで時短勤務と同じような扱いにしてもらって、基本的には在宅勤務になりました」
そんな時だ。義父母から連絡があったのは。夫の病気については伝えておいたが、義父母からは見舞いすらなかった。コロナ禍だからしかたがないと思っていたアヤカさんだが、在宅で仕事ができるようになったことは伝えた。
「毎月のあれ、寄越すように言って」と義母
「すると義母が、『だったら毎月のあれ、寄越すように言って』というんです。『もう随分もらってないんだけど』と。何の話かと聞くと、『息子には大金を貸してるのよ。聞いてないの?』って。説明してほしいと言うと、息子を育てた費用を返してもらっていると言うんです。え、え、何それ……と、びっくりしました」夫は両親の話をほとんどしたことがなかった。結婚後も、アヤカさんは夫の実家へ行ったことがない。夫はアヤカさんの実家へはたまに顔を出すので、「あなたの実家はいいの?」と聞いたこともあるが、うちはいいんだ、と言うばかりだった。
「大学を出すまでいくらかかったかわかる? 2000万くらい返してくれればいいけど、最近はまったく振り込みがないし、こっちも困ってるのというんです。もともと、子育てにかかった費用は子どもが大きくなったら回収するつもりだったと言うんですよ。なんだかもう、言葉が出ませんでした」
もう黙っていられず、夫を刺激しないようにしながら電話があったことを告げた。夫は顔をゆがめたという。
仕事を始めて約20年、毎月5万円で年に60万。夫から義父母に渡ったお金は1200万円にのぼる。ボーナス時には加算していたらしい。それでもまだ足りないと義父母はいうのだ。
病の息子に!?「返金という名の搾取」
「夫がお金の話をオープンにしなかったのは、それが原因でした。結婚して10年以上たって初めて知った事実。病気になった息子からも返金という名の搾取を続けるのかと私は腹が立ってしまったんですが、夫は少し待ってもらうよう自分から言うよと力なく言いました」さらにあとから知ったのは、病死と聞いていた夫の弟が、実は兄弟で水遊びをしている時に事故で亡くなったという事実だった。夫が4歳の時の出来事だったが、両親はそれ以来、弟が水死したのは兄であるおまえのせいだと刷り込んだらしい。
「だから夫は黙ってお金を払い続けているんだと思います」
現在、夫は週に3回ほど出社できるようになり、給料もほぼ元に戻りつつある。だが出張などはできないため手当は激減した。
「夫と両親の間がどうなっているのかは、よく分かりません。夫はこれ以上、私に心配はかけたくないと。夫だって本調子じゃないのだから、もう少し腹を割って話してほしいとは思う。ただ、夫の気持ちを無視するようなことはしたくないし……。今はとにかく夫の体調に気を配りながら、私も頑張って働くしかないと思っています」
育てた費用を返せという親がいるとは、なんとも凄まじい話だと思うが、そんな夫をそばで見ている妻も切ないだろう。どこまで夫の気持ちを尊重すればいいのか時々分からなくなると、アヤカさんはつらそうにつぶやいた。