勤務医が、一国一城の主である「医療法人理事長」になるまでにはどのようなステップがあるのでしょうか。今回はクリニック開業から医療法人化までのプロセスについて説明します。
ここでは勤務医がクリニック(医院、診療所)を開業するにあたり、どのようなステップを踏むのかについて記載していきたいと思います。
どんな人がクリニックを開業する?
クリニックの開業について、以前は40代後半から50代の医師によるものが多かったようですが、現在は若い年齢で開業される先生も多くなってきた印象があります。開業の理由については親が開業医でその事業を継承する、というケースはもちろん多くありますが、
- 自身の子どもを医師にするためにかかるコストを計算し、「勤務医では資金的に厳しい!」と考え開業に踏み切る先生
- とにかく稼ぎたいから開業する先生
- 「上司や先輩に何か指図されたくないから開業する(これらは若い先生が多い)」という今どきな先生
開業するまでにはどんなプロセスがある?
医師が開業するプロセスには多くのステップがあります。①場所の選定(診療圏調査(※どれくらいの患者が見込めるか調査すること)→不動産探し)
②資金調達(借入)
③機器の選定(医療機器・電子カルテなど)
④内装の選定
⑤保険の選定(借入に対する団信や火災保険など)
⑥税理士の選定
これらのステップをすべてクリアした上で、内覧会・開業日の決定を経て、満を持して開業という流れとなります。
①から開業までは早くても1年、基本的には2年ほどの長期戦になるという認識で良いかと思います。
医院開業コンサルのお世話になることも……ただ注意も必要
開業にあたり、コンサルタントを入れずに「自分で1からすべてやる!」という猛者もいるにはいますが、非常に稀です。ほとんどは医院開業コンサルのお世話になるようです。開業コンサルは薬の卸業者、薬局大手の開業部隊、リース会社、独立系など多くのプレーヤーがいます。しかし、零細の独立系を中心に悪質な業者も多く、注意が必要です。
私も開業コンサルとは数社取引があり、保険のご依頼をいただきます。そのため開業のプロセスを何度も見てきましたが、ここでマトモな会社・担当者をしっかり選定できるかどうかで、開業の成否が大きく左右されると言っても過言ではありません(こうしたことから、お付き合いのあった医師から開業コンサルの紹介を依頼されることもあります)。
開業して終わりではない! 医療法人化までの流れ
開業コンサルの方と綿密に相談しながら晴れて個人開業医になれても、これで終わりではありません。「保険診療」の場合は、社会保険診療報酬の入金が2カ月後からとなる上、売上が安定して医療法人化できるまではさらに時間がかかります。そもそも社会保険診療報酬が5000万円以下であれば、個人開業医のほうが得になる税制(租税特別措置法26条の概算経費特例)があるため、医療法人化は見送られることが多いです。
この特例を超えた場合でも、社会保険診療報酬が7400万円以上だと医療法人化のメリットが出てきます。そのため、基本的には1億円前後の(社会保険)診療報酬があるクリニックが医療法人化するという認識で良いと思います。
医療法人の設立は法人化できる月が各都道府県によって違うため、一国一城の主として医療法人の経営者(理事長)になるにはとても多くの時間と労力が必要になるのです。医師の先生方は若いころからずっと努力してきた方が多いため、この辺は苦労とも思わずにクリアしていくようなイメージですが、傍から見ていると大変だなと思ってしまいます。
今回は開業前から医療法人化に関しての大まかな流れを説明しましたが、次回はそのプロセスの中で考えていくべき保険やお金についてを書いていこうと思います。